「キャンペーンに力を入れ、トラブルを想定していなかった」
トラブル多発の大きな要因は政府が拙速に導入を進めたことだ。自治体情報政策研究所代表の黒田充氏が指摘する。
「マイナカードを保険証として利用した際に他人の情報が表示されるのは、健保組合などがマイナンバーと被保険者番号の紐付けを間違ったためです。国はマイナカードの普及を急ぐあまり“マイナポイント2万円分配布”といったキャンペーンに力を入れ、トラブルを想定していなかった。人間が関わっているのですからミスが出るのは当たり前です」
この先、政府は紙やプラスチックの健康保険証を原則廃止し、2024年秋までにマイナ保険証への一本化を目指す。その際、さらにトラブルが増加すると黒田氏が語る。
「マイナンバーに紐付けられた被保険者番号は転居や転職などで変わり、その都度マイナンバーと被保険者番号の紐付けを修正する必要がある。ミスは今後も出るでしょう」
懸念されるのは、さらに重大なトラブルが発生する恐れがあることだ。黒田氏は「カルテの取り違え」を不安視する。
「マイナカードを保険証として使うと、医療機関は患者の投薬情報や特定健診情報などを確認できますが、国は今後、閲覧可能な医療情報を増やす計画です。マイナンバーと被保険者番号の紐付けを間違うと、カルテが他人のものと取り違えられ、それに基づいて医師が診察や投薬をすることになる。最悪の場合は命に関わります。このリスクがあるため、多くの医師がマイナカードと保険証の一本化に反対しています」
実際、4月には全国の医師1075人が「マイナ保険証の義務化阻止」を掲げて国を提訴した。
※週刊ポスト2023年6月23日号