6月7日に経済財政諮問会議(議長・岸田文雄首相)が開かれ、経済財政運営の基本指針「骨太の方針」の原案が示された。当初、盛り込まれるとされた岸田政権が掲げる「異次元の少子化対策」の財源については、詳細が含まれず議論が先送りとなった。児童手当については高校生への支給、所得制限の撤廃、第3子以降への増額などと喧伝されているが、その財源がどう捻出されるのかは不透明な部分が多く、むしろ子育て世代のなかでも負担増となる人たちが出てくる懸念がある。
たとえば、現行制度では中学生までとなっている児童手当の支給対象について、「高校生にも月1万円支給」と拡充される見込みだが、その代わりに「扶養控除」の廃止が検討されているのである。鈴木俊一財務相は5月23日の閣議後会見で、児童手当が高校生まで拡充される場合、「(16歳以上19歳未満の子供がいる家庭に適用される)扶養控除との関係を整理する必要がある」と言及した。
新たに「手当」が受け取れるというのは家計にとってプラスだが、「控除」がなくなればマイナスである。ブレイン社会保険労務士法人代表で社会保険労務士の北村庄吾氏が解説する。
「現行制度では16歳以上19歳未満の子供を扶養する場合、『扶養控除』の適用を受けられます。高校生の子供を扶養する世帯では、子供1人につき38万円が所得から控除される仕組みです。児童手当を拡充して高校生の子供1人につき年12万円(月1万円)の手当を支給するだけだと、児童手当は課税対象ではないため政府にとっては歳出が増えるだけで所得税の収入が増えない。莫大な予算が必要になるため、政府は『手当』と『控除』の二重補助とならないように、高校生に適用している38万円の扶養控除の廃止や縮小を検討しているわけです」
所得税と住民税のダブル増税に
所得税は累進課税で、所得に応じて5~45%の税率が課されるが、これは単純に額面ベースの年収に対して課されるものではない。各種の控除があり、そのうちのひとつが扶養控除だ。北村氏が続ける。
「会社員であれば、会社から受け取る給与・ボーナスに対し、給与所得控除や社会保険料控除などが受けられます。各種の控除を差し引いたうえで課税所得金額が算出され、所得税の税率が決まる。また、住民税についても、控除額が所得税とは若干異なりますが、課税所得金額の約10%の税額と考えればよい。つまり、38万円の扶養控除(住民税では33万円)がなくなれば、所得税と住民税のダブル増税になるわけです。
たとえば所得税率20%(課税所得330万円超~694.9万円以下)の人だと、扶養控除がなくなって課税所得が38万円増えると、『38万円×20%=7万6000円』の増税となります。住民税は『33万円×約10%=約3万3000円』の増税。計約10万9000円の負担増で、年12万円の児童手当をもらえても、税金が10万9000円増えるなら、実質もらえるのは年1万1000円に過ぎません。月ごとに換算すればたったの1000円弱の収入増にしかならない」