たとえば右にカーブする曲線区間では、輪軸は軌道の中心よりも左(カーブの外側)に寄って転がります。このとき左の車輪では、レールと接する部分の円周(直径×円周率)が右の車輪よりも大きくなります。しかし、左右の車輪は同じ速度で回転するため、左の車輪は右の車輪よりも速く進むことになり、輪軸に旋回モーメントが働いて右向きに旋回します。これによって、輪軸はレールに沿って自ら舵を切り、曲がることができます。
レールの長さの左右差に対しては、レールと接する部分の円周の左右差で対応します。つまり、右の車輪の円周よりも左の車輪の円周が大きくなることで、左右のレールの長さの差に対応するのです。
いっぽう直線区間では、輪軸は基本的にまっすぐ転がります。もし輪軸が右側のレールに近づく(右に変位する)と、レールと接する部分の円周が左右の車輪で差ができるため、輪軸に旋回モーメントが働いて、軌道の中心に戻ろうとする復元力が生じます。つまり、輪軸の位置が左右どちらかに偏ると、中央に戻す力が働くので、輪軸がレールに沿ってまっすぐ転がることができるのです。
輪軸は、このような自己操舵機能があるため、レールに沿って鉄道車両の進路を案内することができます。鉄道車両が、自動車にあるステアリング機能がなくてもレールに沿って走ることができるのは、このためです。
「輪軸」が転がる向きは、カーブしたレールに合わせて自動的に変わります。つまり「輪軸」は、自ら舵を切って転がるのです。
このため電車の運転士は、進行方向を定める舵を操作する必要がありません。航空機には「操縦桿」、自動車には「ステアリングホイール(ハンドル)」、船舶には「舵輪」と呼ばれる舵を切るハンドルが存在しますが、電車をふくむ鉄道車両の運転台にはそれが存在しません。それは、先ほど紹介した「自己操舵機能」があるからなのです。
【プロフィール】
川辺謙一(かわべ・けんいち)/交通技術ライター。1970年生まれ。東北大学工学部卒、東北大学大学院工学研究科修了。化学メーカーの工場・研究所勤務をへて独立。技術系出身の経歴と、絵や図を描く技能を生かし、高度化した技術を一般向けにわかりやすく翻訳・解説。著書多数。