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【焼肉屋になったトップガン】元航空自衛隊パイロットの定年後の新たな挑戦 「月給18万円でも充実した日々」

30代前半の朝長さん。百里基地第204飛行隊時代

30代前半の朝長さん。百里基地第204飛行隊時代

自分の店をオープンする準備に奔走

現在の月給は手取りで約18万円。自衛隊パイロット、指揮官時代は年1000万円を超える俸給を得ていたが、収入は5分の1以下に激減した。

「幸い、うちは子供も独立していますし、住宅ローンもないので生活に困ることはありません。でも、それらの支払いや親の介護を抱えていたら、かなりシビアな状況になったと思います。いずれにせよ、定年後に即隠居という選択肢はありませんでした」

朝長さんと同様、自衛官の多くは50代前半から半ばにかけて定年を迎える(定年の年齢は階級によって異なる)。定年後は退職金に加え、賃金減少を補填するための「若年退職者給付金」が支給されるが、その額は幹部自衛官でも1200万~1500万円とされる。働いて収入を得るか、退職金や貯金を切り崩さなければ、年金受給開始の65歳まで生計を維持するのは困難だ。

「私は正社員として採用されましたが、7月からはアルバイト契約に切り替わるので、収入はもっと減ります。月20日ほど働いて、月給は12万円程度になるでしょう」

 そう話す朝長さんだが、表情は明るい。実は、念願だった自身の店のオープンに向け、この夏から本格始動することになったのだ。すでに物件も店名も決まった。アルバイト契約への切り替えも、独立に向けてのこと。現在は内装業者との打ち合わせや仕入れ先の確保、メニューの試作に追われる毎日だという。

「自分の誕生日の9月オープンを目標に、準備を進めています。防府市内の繁華街に構えるのは焼肉店ではなく、こぢんまりとしたバー。私はウイスキーやワインが好きなので、自分が厳選したこだわりのお酒と、美味しい料理を出すお店を作りたかったんです。現役時代は訓練や異動で全国を転々とし、各地の美味しいものを口にしてきましたから、これでもけっこう舌は肥えているんですよ(笑)」

 時折ジョークを交え、終始柔和な笑顔で取材に応じてくれた朝長さん。印象的だったのは眼光の鋭さだ。

「現代のステルス機同士の戦闘では、レーダーに映らない何千フィートも先の小さな敵機を、相手より早く目視で捉えられるか否かで生死が分かれます。だから、戦闘機乗りの眼光はとても厳しくなる。私も初対面の人と接する時は、口角を上げて柔らかい表情になるよう意識しています。よく『最初は怖い人だと思っていた』と言われますが、地上に下りればどこにでもいるごく普通のおじさんですよ(笑)」

 第2の人生はひとまず順調なスタートを切った。傍から見れば順風満帆の人生だが、「自分は映画で描かれるエリートパイロットとは程遠い存在でした」と朝長さんは笑う。元トップガンが語った紆余曲折、波乱万丈の自衛官人生とは――。

後編に続く

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