年金だけでは生活費が足りないのではないかという不安が広がるなか、「老後への備え」として貯蓄型の個人年金保険が盛んに宣伝されている。だが、ファイナンシャルプランナーの横川由理さんは首を傾げる。
「シニアでも入れることをうたい文句にしている年金保険もありますが、多くの商品は元本割れしますし“95才でやっとトントン”という設計になっている。その間、苦労して月額5万円を払い続けていて、楽しいでしょうか。もっといまの生活を豊かにする方が幸せなのではないかと考えてしまいます」
契約者が支払う保険料を保険会社が投資信託などで運用し、運用次第で保険金や解約返戻金が変動する「変額保険」も人気になっているが、安易に飛びつくのは危険だ。『生命保険の不都合な真実』の著者で朝日新聞社会部記者の柴田秀並さんが注意を促す。
「投資信託と保障が組み合わさった商品で、一石二鳥と宣伝されています。しかし、実態は高コストの投資信託と中途半端な保障が組み合わさった“ぼったくり”に近い商品といわれています。なかには初年保険料の8割が保険代理店に手数料として入るものもあります」
実際にこんなケースがあったという。首都圏在住の30代男性は、長男の誕生を機に「お金のことを真剣に考えよう」と、資産形成の無料相談窓口を訪れた。応対したファイナンシャルプランナーは資産運用や保険の仕組みを丁寧に説明し、すぐに商品をすすめられることもなかった。
そして男性がすっかりファイナンシャルプランナーを信用するようになった4回目の訪問で、「一石二鳥の保険があります」とすすめられたのが変額保険だった。
「月々2万円の保険料を30年間払うもので、支払い総額は720万円。契約期間中に死亡すると931万円もらえますが、満期の30年後まで生きた場合、運用実績が0%だと577万円しかもらえない。契約後に男性が調べてみたところ、かなり割高な保険コストも上乗せされていて、“騙された”と思ったそうです。
結局、男性は2か月で解約しました。解約控除という違約金のようなものを取られましたが、30年間払い続けるよりは傷が浅いという判断でした」(柴田さん)
そもそも最初から保険に入っていない人もいる。愛知県在住のTさん(47才・仮名)がそうだ。
「ずっと独身で、私が死んでも経済的に困る人はいないので、入る必要性を感じません。会社勤めだから病気やけがをしても手当があるし、それなりの貯金もある。保険料を払う分をNISA(少額投資非課税制度)などに回す方が将来も安心だと思います」