財産管理や手続きなどをおこなってもらう「任意代理契約」
たとえば、銀行に行ってお金を下ろす、福祉や介護の手続きのため役所の窓口に行くといったことも、体が不自由になると一人では難しくなる。病院や施設に入っていて外出がままならなければ、自分の財産ですら自由にできなくなる。
「本人に判断能力はあるけれど、体が不自由になったとき、委任状を作成して誰かに頼むこともできますが、毎度では、頼むほうも頼まれるほうもストレスとなります。そのような時に、財産管理や諸手続きを行ってもらう契約が、『任意代理契約』です。最近では、入院するにあたって、病院から『財産管理を誰かと契約してきてください』と言われて相談に来る人もいます」
判断力が低下したら代理人になってもらう「任意後見契約」
認知症になり判断ができなくなったら、さまざまな問題が生じる。大きいのが財産の管理だろう。要支援だった利用者の認知症が進み、お金の管理がままならなくなり、ケアマネージャーが利用者の財産管理で困っている、といったケースも珍しくないという。
ほかにも、認知症になれば施設に入ろうにも自分では探せないし、契約もできない。たとえば、「マンションを売却したお金で老人ホームに入ろう」といったライフプランを想定していたとしても、判断力がなくなると不動産取引はできない。判断力がなくなると、あらゆる契約が結べなくなるのだ。
「『任意後見契約』は元気なときに後見人になってもらいたい人と契約を結んでおき、判断能力が低下したときに、その相手に財産管理だけでなく、生活や医療、介護に関する契約や手続きをおこなってもらう契約です。この契約がないまま、頼れる身内のいないおひとりさまが認知症になると、行政が介入して家庭裁判所で、後見人をつけてもらうことになります」
これを聞いて、「なんだ、行政がやってくれるんだ」と思うかもしれない。しかし、それはあまりにも楽観的にすぎるという。2025年以降、団塊の世代が後期高齢者になり認知症が増加することは間違いなく、行政の手が回らなくなることが想定されるというのだ。
「行政が必ずやってくれるとは限りませんし、後見人への報酬も必要です。また、後見人がついたとしても、その人はあなたがどういう人生を歩んできたのかまるで知らない人です。施設選びにしてもお金の使い方にしても、あなたの望むかたちにはならないかもしれない。少なくとも、事前に自分の意思で任意後見契約を結び、任意後見人になってくれる相手と話し合いをしておけば、亡くなるそのときまで、望んだかたちの支援を受けることも可能です」