こうした要因に加え、「他人に拒否されたくない」と恐れる人が増えたと北村さんは続ける。
「ぼくはよく、講演会などで冗談交じりに“失敗は性交のもと”と話しています。セックスは異性間で何度もコミュニケーションを重ねた先にあり、その過程では必ず失敗しますが、みんなその経験によって人とのつきあい方や距離感を学んでいくから、失敗してもいいし、むしろするべき。にもかかわらず失敗を恐れて二の足を踏んでいるから、セックスに至らないケースも多いのです」
男女の出会い方が変化したことも一因だ。それまでは学校や職場、友人の紹介や合コンなどが主流だったが、近年は若い世代を中心にマッチングアプリが隆盛を極め、大人数で集まることを自粛せざるを得なかったコロナ禍が拍車をかけた。
『バカと無知』『無理ゲー社会』など数々のベストセラーがある作家の橘玲さんは、マッチングアプリの登場で恋愛が「無理ゲー」になったことが童貞化の要因だと語る。
「ほぼゼロコストで精子を提供できる男性と違って女性は卵子の数が限られていて希少なので、自分にふさわしいパートナーをじっくりと選ぶ傾向があります。各人のプロフィールやスペックが一覧できるマッチングアプリはそうした女性の生物学的な特性に寄り添ったサービスでしょう。
アメリカのある研究によると、マッチングアプリにおいて女性は男性の1000倍も相手を選り好みするそうで、これでは大半の男性がふるい落とされてしまいます。現代の恋愛市場は多くの男性にとって攻略困難なゲームを指す『無理ゲー』なのです」
ただでさえ参加するための倍率が高いうえ、運よくその「選抜」にふるい落とされなかったとしてもその先に進むためにはさまざまな「アイテム」が必要になる。
女性の社会進出が加速すれば“非モテ”が増える
「デートって、お金がかかるんですね……」。ある20代男性はため息をつきながらこう話す。
「マッチングアプリで仲よくなった女の子と会うことになったのですが、ランチでもおしゃれな店に行けば1人2000円くらいはざらにかかるし、初回くらいおごらないと格好がつかない。“牛丼でいいかな?”と言って女の子がついてきてくれるほどイケメンじゃないという自覚もあるから(苦笑)。だけど月収20万円のひとり暮らしで奨学金の返済も残っている身に、1回5000円の出費はかなり厳しいです」