家庭内ではひと悶着ありましたが、面接ではその場で採用が決まり、時給600円のパートとして働き始めました。私が入ったブックオフ1号店は、中古本販売のチェーン店。いまでいうベンチャー企業で、しかも1号店ですから、何もマニュアルがなくて、ルールをいちから作り上げたんです。それが本当に楽しかった。
それに、これまで家族のために当たり前と思ってこなしていた掃除や整理整頓が、店だと仕事として評価され、お金までいただける。これがとにかくうれしかったんです。私はどんどん仕事にのめりこみ、その成果が認められたのか、半年後には2号店の店長に、1年後には社員にしていただきました。そして2006年、代表取締役社長にまで任命していただいたんです。
おれとどっちが大事だと夫に言われ
パートから社員になれば、お給料も増えますが、忙しさも増します。17時までに帰るといって23時まで会議をしていたことも。そんなある朝、出張に行く夫のワイシャツにアイロンをかけるのを忘れてしまって。そのとき初めて夫は激しく怒りました。
「ブックオフとおれ、どっちが大事なんだ」って──答えはもちろん、ブックオフでしたけど(笑い)。とはいいつつも、私はあくまで夫に働かせてもらっている、と思っていましたから、すぐに謝って家事に抜かりがないようがんばりました。外で私がどんな立場にいようと家では主婦ですから。家事が追い付かず、迷惑を掛けたのは申し訳なかったです。
そんな夫も2009年に悪性リンパ腫を発症し、4か月の闘病生活の末、先に逝ってしまいました。夫が亡くなった後、同僚のかたから聞いた話によると、私が社長に就任したときの新聞記事のスクラップをこっそりといっぱい集めていたらしいんです。「うれしそうに見てました」と教えてくださってね。もう、生きていたときはそんなところは微塵も見せなかったくせに(笑い)。