【1】銀行預金を引き出した
被相続人の銀行預金を引き出したり、不動産を売却したりすると、すべての財産を相続する「単純承認」での相続を認めたと見なされる。そのため、たとえ相続を知ってから3か月以内に相続放棄をしようとしてもそれが認められなくなってしまう。
また、被相続人が身につけていた時計や宝石などの経済的価値があるものを形見として持ち帰った場合も、単純承認と見なされるケースがあるので注意したい。相続放棄をするべきか悩んでいるのであれば、安易に被相続人の財産に触れないよう意識したほうがよいだろう。
【2】大家からの要求でアパートを解約した
被相続人が居住していたアパートを解約すると、相続放棄が認められないケースがある。アパートの解約は財産処分に該当しないと思われがちだが、アパートの解約によって被相続人の「賃借権」という権利を処分したと見なされる可能性がある。そのため、大家(貸主)から賃貸契約の解約を求められても手続きを進めないことが大切だ。
加えて、固定電話や携帯電話を解約することが「電話加入権」の処分に該当する場合もある。予期せぬことで相続放棄ができなくなってしまう可能性があるので、相続放棄前の解約手続きは慎重に進めたい。
【3】被相続人の持ち物を友人に譲った
被相続人の財産を自身が受け取っていない状態でも、財産を他人に譲渡することで相続放棄ができなくなるケースがある。
亡くなった父の友人に「バイクを譲ってほしい」と頼まれた30代男性・Aさんは、この申し出を断ることができずに譲渡手続きを進めたという。結果的に被相続人に借金がなかったので問題はなかったが、相続放棄をしたいと望んでも相続放棄ができないことになる。安易に亡くなった人の持ち物を譲渡するのは避けておくべきだろう。
被相続人から借金の存在を知らされておらず、相続したことを後悔する相続人も少なくない。銀行預金を引き出していたり、アパートを解約したりすると相続放棄を選択したくてもできない状況に陥ってしまう。
このような状況に陥らないためには、弁護士や司法書士などの専門家に被相続人の財産や契約内容などがわかる資料を提供したうえで、被相続人にマイナスの財産があるのか、どのような手続きを進めると相続放棄ができなくなるのか、確認することが大切だ。また、被相続人が住んでいたアパートの大家や、電話会社などが解約手続きを要求してきたときは、事情を説明したうえで手続きを進めないようにするのがよいだろう。一つの行動が原因で、意図せぬ借金を背負うことにならないよう、十分に注意したい。(了)