「消費者金融とパチンコCMには出さない」という事務所も
佐藤のビッグモーターCM降板を受けて、事務所側から企業に対して、コンプラ意識を高めるよう突きつける動きが加速するのではないか、と予想されるわけですが、実は1990年代にも事務所側は企業に対してタレントイメージを守るための策は取っていました。
たとえば「消費者金融とパチンコのCMには所属タレントを出さない」と決めている事務所がありました。というのも、「グレーゾーン」の高金利で貸し付けを行っていた消費者金融(かつては「サラ金」)と、ギャンブル依存症の問題も孕むパチンコのCMに出ることで、タレントのイメージが低下するリスクが懸念されていたからです。
「一流」とされる芸能人はこの2つのジャンルのCMへの出演を頑なに拒み、そこに出演するのは、とにかくカネが欲しいタレントだと揶揄する向きもありました。また、「一流」と自負がある企業は、広告代理店に対して「我が社のCMを消費者金融とパチンコの前後に入れてはいけない」と要求したりもしていました。実際、消費者金融やヤミ金の「過払い」については、後に大きな問題となり、昨今では弁護士事務所がしきりと「戻ってきます」とCMを流しています。そういった意味では、当時の事務所の判断も正しかったのでしょう。
今回の佐藤とビッグモーターの件は、今後のCM業界において企業側とタレント側の関係性に変化を与える契機となるかもしれません。広告業界関係者もこの流れがどこまで加速するのか、固唾をのんで見守っているようです。
【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は『捨て去る技術 40代からのセミリタイア』(インターナショナル新書)。