あまりに心許ない政府の答え
農林水産省によれば、2022年の基幹的農業従事者は約122万6000人である。このうち、50代以下は約25万2000人に過ぎない。すなわち、今後20年間で基幹的農業従事者は5分の1程度の水準にまで落ち込むということだ。
これに伴い農地面積も激減傾向を描いている。1961年の約609万haから2021年は約435万haへと約174万haも減った。
最大の原因は人口減少だ。経営の不安定さもあって若い世代の就農が進まず、高齢化も加速している。日本の食料安全保障を強化するにあたって、真っ先に問われるのは、現在働いている基幹的農業従事者が引退した後、誰が耕作を続けるか、その答えなのである。
これに対して政府が出した答えは「多様な農業人材の育成・確保」であるが、あまりにも心許ない。
「多様な農業人材」とは、いったい誰のことなのか。仮に兼業農家が増えたとして、何を生産し、どれぐらいの穀物生産力の向上につながるのか。外国人労働者も規模が拡大するだろうが、そのうちの何割が永住者や定住者として農地を守り続ける人材となるのか。いずれも見通しがあるわけではない。
外国人労働者の場合、来日者数が増えたとしても、数年で帰国するのでは意味をなさない。違う仕事へと移っていく人もいるだろう。政府は、受け皿となる経営体の強化やスマート農業の普及といった策も打ち出しているが、基幹的農業従事者がここまで激減してしまうのなら、効果は限定的だ。
日本全体で勤労世代が激減し、あらゆる業種で人手不足が顕在化してきているのである。もはや農業従事者が減ることを前提として、それでも有望な産業として「農業」を組み立て直して行かなければならない。それは「農業」の在り方を根底から見直さざるを得ないということだ。
岸田首相も「農政の転換」を語るのならば、「多様な農業人材の育成・確保」といった曖昧な方針ではなく、相当の覚悟をもって変革に挑むべきである。