日本で食料危機の懸念が高まっている。もし有事に食料輸入が止まった場合、食料自給率の低い日本の食卓はどうなってしまうのか。農業経済学の専門家で、著書『世界で最初に飢えるのは日本』が話題の、東京大学大学院農学生命科学研究科教授・鈴木宣弘氏が、迫りくる日本の食糧危機について解説する。
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「お金を出せば食料を輸入できる」。わが国ではずっと当たり前だったその「常識」が、近年崩れてきている。
コロナ禍とウクライナ戦争の影響で、世界の食料需給は不安定化している。戦争の影響でウクライナからの小麦輸出がストップしたほか、インドも小麦輸出の停止を発表するなど、世界各国が自国の食料確保を優先する動きを見せている。
このような状況下で、もし世界規模の食料危機が発生すれば、いくらお金を出しても、食料を買えなくなる可能性が高い。これは危機的な状況と言わざるを得ない。
真の食料自給率はもっと低い
日本のカロリーベースでの食料自給率は38%という低水準だ(2021年度、農林水産省)。しかも、この38%という数字は、実際の状況を正確にあらわしていない。農業生産に必要な資材まで含めて考えると、実態はもっと低い。
例えば、野菜の自給率は約80%あるが、野菜の種は9割が輸入だ。それを計算に入れた野菜の「真の自給率」を計算すると、実は8%しかないのである。
同じく、鶏卵の自給率は約97%と高いが、鶏のヒナはほぼ全量を輸入に頼っている。また、鶏のエサとなるトウモロコシの自給率はほぼゼロ。
それだけではない。現代の農業では化学肥料が使われるが、その原料となるリン、カリウムは100%輸入に頼っている。尿素についても約96%を輸入している。
もし、これらの輸入が何らかの理由で止まってしまえば、国内生産は大きな打撃を受けるだろう。