同じくオープニングメンバーに名を連ねた博多「一風堂」も、出店交渉は難航を極めたという。
「創業者の河原成美さんに頼み込み、なんとか建設中の現場を見ていただけることになったものの、河原さんは『こんな立地で人が来るはずはない。(岩岡さんが示した)月商1000万円なんて到底無理だ』と判断。その場で断わって帰ろうと思ったそうですが、準備室メンバーの熱意にほだされるかたちで、最終的に出店を決意してくださいました」
一方で、岩岡さんに大きなプレッシャーとなっていたのが、膨れ上がる建設費用の問題だった。
「館内に夕焼けに染まる昭和の街並みを再現するため、特殊な工法で地下を掘り下げるなど細部にこだわった結果、総工費は当初見込みの20億円から35億円まで膨らみました。最終的には会社や実家の資産をすべて担保に入れ、粘り強い交渉でなんとか融資を得られましたが、母親は建物が出来上がってからも『博物館なんてやめなさい』と反対していました(笑)」
昭和は「豊かではないけど、希望に満ちていた時代」
館内にある77軒の昭和家屋・店舗は、表札や電気メーター、軒先の洗濯物に至るまで当時の雰囲気を忠実に再現。路上の郵便ポストやオートバイは当時のものを探して取り寄せ、ダメージ加工を施すなどリアリティを追求した。街には架空の人々が住み、住民台帳もある。それぞれ氏名や家族構成、職業、趣味まで設定するこだわりようだ。
岩岡さんが「昭和」の街並みにこだわるのは、こんな理由がある。
「決して豊かではないけど、私が子供のころに見ていた風景、明るく希望に満ちていた時代の風景を後世に残していきたかったんです。小さな商店や飲み屋、長屋がひしめく街並みって、何となく居心地よく感じるんですよね。そこに暮らす人たちも、口うるさくてお節介だけど、大らかで温かった。実現には莫大な資金が必要でしたが、『単なる商業施設にはしたくない』との強い思いがありました」
2020年からのコロナ禍では、2度にわたり長期の休館を強いられたが、現在はインバウンド需要も回復。30周年の記念企画「あの銘店をもう一度」も好評で、今年上半期(1~6月)の入場者数は前年同期比85%増となった。
記録的な猛暑が続くなかではあるが、昭和の原風景に想いを馳せながら、熱々のラーメンを啜るのも一興かもしれない。(了)
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