明治以来の法律を墨守する愚
日本の問題は、政党が21世紀に対応する新たな政策を提案できていないことである。このままでは日本は凋落する一方だ。スペインやポルトガルのように数百年衰退し続けるだろう。
IMF(国際通貨基金)の統計によると、2022年の名目GDP(国内総生産)国別ランキングは3位が日本(約4.2兆ドル)、4位がドイツ(約4.1兆ドル)、5位がインド(約3.4兆ドル)だが、すでにドイツとの差はわずか1000億ドル台で、インドとの差も8000億ドル台だ。日本は今年ドイツに抜かれ、すぐにインドの後塵も拝することになるだろう。AI(人工知能)・スマホ革命の「第4の波」に乗り遅れ、世界に通用する人材も育成できていないので、国としての駆動力は期待できない。
最大の原因は、明治時代からの古い法律が残っていることだ。私は30年前に上梓した『新・大前研一レポート』の中で「法律寿命10年法(サンセット法)」を提案した。それは「憲法などの基本法を除くすべての法律は、成立後10年経ったら自動的に失効させる」というものである。
しかし、いまだに内閣法制局が泥縄式の“寄せ木細工”で古い法律を墨守しているから、差別や偏見を生む戸籍などの無意味な制度が存続し、マイナンバーカードのトラブルの元になっている住民基本台帳ネットワークも廃止できない。GHQ(連合国最高司令官総司令部)が置いていった憲法も含め、すべての法律をゼロから作り直さなければ、日本は変われないのだ。
いま日本が没落に歯止めをかけるために必要なのは、20~30年後の未来を見据えて、そのために必要な人材を育成するとともに、移民を含めた新たな人材・能力ミックスを進めることである。全国一律は難しいから道州別で、たとえば九州はITアイランドとして半導体やAI関連の人材を優遇したり、北海道は農業と観光に特化した人材を集めたりすればよいと思う。
そういう未来志向の政策を断行できる新たな政党と政治リーダーが出てくれば、この国の景色は大きく変わるはずだが、“政権維持党”と“選挙互助会”が立法府に居座る限り、21世紀の国づくり・人材づくりは難しいだろう。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『世界の潮流2023~24』(プレジデント社刊)など著書多数。
※週刊ポスト2023年8月18・25日号