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安全資産・債券投資にもリスクあり 信用力の高い債権を満期まで保有してもインフレ時には実質価値が目減りする

実質金利と名目金利

 このリスクをカバーするためにはどうすればいいかというと、予想される物価上昇率を上回る金利をもらえばよいのです。たとえば、年あたり1%の物価上昇率が起きることが予想されているとして、それを上回る2.5%の金利をもらっておけば、インフレによる目減りをカバーし、そのうえでさらに1.5%の実質的な収益を得ることができます。

 インフレ予想分の1%を除いた1.5%の実質的な収益部分を実質金利と呼びます。つまり、われわれが普段金利と呼んでいるものは、実質的な収益部分と、インフレによる目減りを補う部分との合成になっているということです。この関係はフィッシャー方程式と呼ばれる式で表されます。

【フィッシャー方程式】金利(名目金利)=実質金利+期待インフレ率

 式中の期待インフレ率は、市場参加者が平均的に予測している将来の予想インフレ率のことです。こうした関係からすると、インフレ率が高まっていくと予想される状況であれば、お金を貸す側はそれを十分に上回る金利を得ようとしますから、名目金利は上がっていくことになります。逆もまたしかりです。

 実質金利は、実際には、何らかの方法で計算をしてみないと水準がわからないものなので、普段は目に見えませんが、金利というものが実質金利と期待インフレ率の合成でできていると考えることは、経済成長と金利の関係を考えるうえでも非常に重要なポイントです。

 景気の状態をまとめて表す経済成長率においても、名目成長率と、インフレの影響を除いた実質成長率があります。つまり、名目の経済成長率は、実質成長率と物価上昇率の合成として理解することができ、経済成長の実態を表すものとして重視されるのは実質成長率のほうです。

 呼び方が似ているだけではなく、この名目成長率と実質成長率の関係は、名目金利と実質金利の関係に直接的に結びついています。つまり、物価上昇に関係なく、生産性の向上や市場規模の拡大などによって実質的に経済が成長していく部分に対応して発生するのが実質金利です。

 実質的な経済活動が不活発なら実質金利も低くなり、実質的な経済活動が活発なら実質金利も高くなります。逆に、低い実質金利は経済に刺激を与え、高い実質金利は景気抑制効果をもちます。

 こうした実質ベースの話に物価上昇分が加わったものが名目の値ですから、名目金利は名目成長率に対応するものとなります。

 ただし、今取引されている金利は、10年金利なら今後10年間の経済状況の予想を反映したものになっているはずですから、金利に含まれているものはすべて予想ベースです。したがって、実際の経済成長率と予想ベースの金利が常に平仄が合った動きをするわけではないのですが、両者が密接な関係をもっていること自体は間違いありません。いずれにしても、このように経済成長率や金利を実質部分とインフレ部分に分けて考えることで、両者の対応関係が明確になり、金利の変動要因もより明確に考えることができるようになります。

インフレリスクを回避する物価連動債

 さて、債券にはインフレのリスクがあり、そのリスクを回避するには予想されるインフレ率を上回る金利をもらえばいいという話でしたが、そうはいっても将来のインフレ率を事前に確定的に知ることはできません。先ほどの例では1%の物価上昇率が見込まれていて、それを上回る2.5%の(名目)金利を受け取れば1.5%の実質的な利益が得られるということでしたが、実際の物価上昇率が予想を超えて3%になってしまえば、結果的に実質価値の目減りを防ぐことはできなかったことになります。したがって、結局のところ、予想以上のインフレによって債券の実質価値が減少するというリスクはどうしても残るのです。

 少々マニアックな話になりますが、こうしたリスクを完全に回避できるように設計された特殊な債券があります。物価連動債というものです。これは、実際の物価上昇に合わせて元本が増加していく仕組みの債券です。当初100円で発行された債券でも、満期までのあいだに物価が2倍になったら、債券の元本も200円に増額されます。

 このような債券では、実際の元本額が途中で変わってしまうので、事前に正確な名目上の利回りを計算することはできませんが、元本がいまのままで変わらないと仮定した利回りなら計算できます。インフレが生じても、その分、元本が増えて実質価値の減少を補ってくれるので、その分は考えずに利回りを計算するということです。その場合の利回りは、インフレ分を除いた計算になっていますから、まさに実質金利に相当することになります。

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