亡くなった人が相続について意思を表明する「遺言書」。法的効力があり、活用すれば相続のトラブルを未然に防げる。
特に「自筆証書遺言」は紙とペンと印鑑さえあれば作成できる手軽さがあるが、その一方、定められた書式に則っていないと危機を招きかねない。相続関連の著書が多い税理士法人レディングの木下勇人税理士氏が言う。
「自筆証書遺言の場合、財産目録はパソコンで作成可能ですが、本文は必ず全文自筆で書かなくてはなりません。内容のほか日付、氏名も自筆したうえで、シャチハタでない印鑑で捺印すること。訂正する場合も、本人が該当箇所に自筆で書き込み、捺印するといった決まりに沿って行なう。ルールに沿っていないと形式不備で無効となります」
不備があった場合、何が起きるのか。
「故人の意思に反して、相続人たちが遺産分割協議を行なうことになります。仮に『全財産を長男に』といった遺言が無効だった場合などは、他の子供たちが長男に反感を持つなどしてもめるのは必至です」(木下氏)
また、形式不備がなくても、内容がいい加減だとトラブルにつながる。
「相続財産を明確に特定できていない遺言書も問題になります。『3分の2を長男、3分の1を次男に』といった書き方は、遺産総額をこの割合で分ければいいのか、複数ある不動産や預貯金のそれぞれをこの割合で分けるのかが不明瞭で、各相続人が都合良く解釈して対立しがちです」(木下氏)
対処法は2つある。
「1つは公証人と2人以上の証人立ち会いの下、公証役場で『公正証書遺言』を作成すること。もう1つは、各地の法務局で書類の形式不備のチェックを受けられる『自筆証書遺言書保管制度』を利用することです。1通3900円で紛失の心配がなくなり、破棄や改竄も防げる」(木下氏)
※週刊ポスト2023年9月15・22日号