老親が亡くなったとき、親族がいがみ合う“争続”は避けたい――そんな時に頼りになるのが「遺言書」だ。子が親に対し、元気なうちに遺言書を書くようにと頼み、親が準備する例も多いだろう。
しかし、せっかく書いてもらった遺言書が「無効」になるケースがある。名古屋市在住の女性(56)が語る。
「我が家では、長女の私が父親と一緒に実家で暮らし、次女の妹が結婚後は離れて生活していた。父がまだ元気だった10年ほど前、母が亡くなって妹が実家に帰ってきたときに、家族で『お父さんが亡くなった後も、財産のことで揉めないように』と話し合って、遺言書を書いてもらった。
それで安心かと思っていたのですが、1年前に父が亡くなり、遺言書を開けてみると『長女に任せます』とだけしか書かれていなかった。弁護士には、遺産分割協議を長女に任せたのか、全財産を託したという意味なのか判断がつかないので、遺言書は無効だと言われた。
父は生前、『姉妹で仲良く半分に分けろ』と話していましたが、父の財産は、私と同居していた実家の不動産が大半で、貯金額は少なかったんです。妹は『もっと遺産があると思っていた。実家も現金化して半分に分けられないか』と言い出した。まさかこんなことになるなんて……」
この女性の場合、父親の遺言書に「内容の不備」があったことが、無効になった原因だった。『夢相続』代表で相続実務士の曽根恵子氏が言う。
「遺言書では『〇〇に託します』『〇〇に任せます』といった曖昧な文言は無効になります。他にも『〇月吉日』と日付を書かない人は意外と多いですが、『令和〇年〇月〇日』まで書かなければ有効とみなされません」