親の介護を相続人の1人が担っていた場合、その死後、「介護にかこつけて親の金を横領していたことが発覚」したり、あるいは「他の相続人から使い込みを疑われた」などのトラブルが生じることがよくあるという。相続に詳しい税理士の山本宏氏が言う。
「親が要介護状態になれば、介護を担う子供が親の通帳やキャッシュカードを管理するのは必然。両者が合意していれば法的にも問題はありません。しかし相続発生後、親の預金から引き出した現金の使い途をめぐってトラブルとなる可能性があります」
母と同居し、介護もしていた長男のDさんが、別に暮らす長女(妹)、次男(弟)ともめたケース。母の死後、Dさんが財産目録を作成して遺産分割協議に臨んだが、そこに記載された預金残高が長女の想定より遥かに少なかったため、分割協議が紛糾した。その後、裁判にまで発展し、3年が経つ今も決着はついていないという。
「Dさんは『母の生活費や医療費、介護に必要な分をキャッシュカードで引き出した』と主張しましたが、1回の引き出し額が大きかったことや領収証などが保存されていなかったため、妹から『本当に母のために使ったのか』と問われました。介護の途中から母はもの忘れが目立ったため、余計に疑いの目を持たれてしまったようです」(同前)
事前にできる防衛策は、介護などを目的に親のお金を使う場合、簡単な形でもいいので「いつ、いくら引き出した」「それを何に使った」と帳簿に記録しておくことだ。それがないまま相続が開始されたら、真摯な態度で他の相続人に事情を説明、理解を得るのが望ましい。
「介護には時間もお金もかかることを他の相続人はなかなか理解してくれません。しかし、裁判になると多額の費用がかかり、残された相続財産もさらに目減りする。それは避けるべきです」(同前)
※週刊ポスト2023年9月15・22日号