「高齢者の1人暮らし」増加も影響
厚生労働省によれば、全管路延長(導水管や配水管をすべてつなげた総延長)約73万キロメートルのうち法定耐用年数(40年)を超えた管路は約14万キロメートルに及ぶ。その割合を示す管路経年化率は毎年上昇し続けて2019年度には19.1%となっている。2006年度には6.0%だったので、急速に老朽化が進行していることが分かろう。
これに対し、更新率は低下傾向をたどってきた。近年は横ばいだが2019年度の更新実績は0.67%に過ぎない。法定耐用年数を経過した管路延長が増加するスピードに更新が追い付いていないのである。
実務上の更新基準は平均するとおおむね60年であり、今後20年程で更新を完了しなければならない。「2043年度までに平均43%値上げが必要」との推計が登場する理由もここにある。各事業体ともお尻に火がついてきたということだ。
このように値上げの直接要因は施設・設備の更新費用がかさむためだが、ここまで値上げ率が大きくなるのには別の事情もある。収入の目減りだ。
収入が目減りしているのは、節水機器が発達・普及したことによって家庭での1人あたりの使用水量が減ってきていることに加え、人口減少による利用者数減がある。高齢者の1人暮らしが増えて1軒あたりの使用料も減っている。幾重もの使用水量の縮減に見舞われているのだ。
電気代や人件費の値上がりよりも深刻な要因
総務省の資料によれば、料金徴収の対象水量である有収水量は1日あたり4100万立方メートルだった2000年をピークに減少しており、2050年には2700万立方メートルと3分の2程度の水準にまで落ち込む見通しとなっている。
規模の小さな水道事業体ほど人口減少率は大きい。2010年と2040年を比較すると、給水人口が1万5000人未満の事業体は全国平均(16.1%)の2倍を超える減少率になると推計されている。
水道事業体の経営悪化に追い打ちをかけているのが、電気代の高騰だ。浄水場から送水するポンプを動かすのにかなりの電力を消費する。人件費や資材費の値上がりも重荷になってきている。
このように水道事業体は複合的な要因で事業自体の持続可能性が懸念される苦境に陥っているが、長期的に見て影響が最も深刻なのは人口減少による利用者不足であろう。他の要因と異なり、永続的に続くためだ。
しかも、われわれは人口減少による経営へのダメージが、水道だけの話ではないことに気づく必要がある。電力やガス、公共交通機関などすべての公的サービス事業に共通する課題だ。