現実から読み解くべき“未来のメッセージ
既存自治体の境界線にこだわらずデジタル技術を活用することで最低10万人の商圏を維持すれば、生活に必須なサービスや商品を提供する事業者が立地し続けられるとの国土交通省の試算に基づき、全国に10万人以上の「地域生活圏」の展開を目指すというのである。これは10万人都市の構築やコンパクトシティとは異なり、道路網やインターネットによって結びつく「一体的な生活エリア」を全国各地に築こうという構想だ。
これまでの人口減少対策といえば、各地で「不足」する部分を穴埋めする政策が中心だった。「国土の均衡ある発展」という考えから脱し切れていない人もいまだ少なくなく、新幹線や空港などの早期建設を求める声は依然強い。
だが、こうした現状維持や拡大を目指す手法は、人口減少がさらに深刻化すると続かなくなる。穴埋めしようにも追い付かず「不足」状態が常態化し、同時に本稿で見てきたように生活コストの高騰も招くためだ。政府が拡大路線を転じて、「集住」の促進へと舵を大きく切り始めたのも、こうした現実を踏まえてのことだろう。
戦後の日本は、居住エリアを拡大し過ぎた。もはや現状維持ではなく、地域ごとの「集住」によって不足状況そのものを少しでも減らすことを考えるタイミングである。全国各地で相次ぐ水道料金の大幅値上げから“未来のメッセージ”を読み解くことが大切である。
【プロフィール】
河合雅司(かわい・まさし)/1963年、名古屋市生まれの作家・ジャーナリスト。人口減少対策総合研究所理事長、高知大学客員教授、大正大学客員教授、産経新聞社客員論説委員のほか、厚生労働省や人事院など政府の有識者会議委員も務める。中央大学卒業。主な著書に、ベストセラー『未来の年表』シリーズ(講談社現代新書)のほか、『日本の少子化 百年の迷走』(新潮選書)などがある。