東京の貿易会社に勤めるAさんは、60歳で定年を迎えた後、再雇用(月給30万円)で働きながら年金を繰り上げ受給することにした。ところが、しばらくして元部下だった現在の上司との折り合いが悪くなった。
「年金もあるし、しばらくは失業保険も出るからほかの仕事を探そう」と自己都合退職し、ハローワークで求職と失業保険を申請した。
勤続20年以上のAさんは、日額5020円の失業手当を最大150日(5か月)、合計約75万円受給できるものと計算していた。ところが盲点があった。
「65歳になるまでは失業給付と厚生年金(2階部分)を同時に受給することはできません。失業給付を受ける期間は、厚生年金は支給停止されます」(北村氏)
結局、Aさんは失業保険を受給した5か月間、繰り上げ受給していた厚生年金のうち2階部分の月額7万6000円、総額38万円を支給停止されてしまった。
繰り上げ受給は、定年後にどうしても生活費が足りないという人にとっては助かるが、一方で、人生の最後が近づいた時に、“あの時に選ばなければ”と後悔しかねない落とし穴もあるのだ。
※週刊ポスト2023年9月29日号