この6月から、公的年金の受給額が3年ぶりに増額されることになった。今年度中に68才以上になる人は1.9%、67才以下だと2.2%引き上げられる。例えば67才以下で厚生年金を受け取る夫婦2人のモデル世帯の場合、4889円増の月額22万4482円に、国民年金では、67才以下で1434円増の月6万6250円になる計算だ。
昨年から加速している物価高を反映した結果の金額だというが、「年金博士」として知られるブレイン社会保険労務士法人代表の北村庄吾さんは、こう指摘する。
「確かに金額だけ見れば増えていますが、実質的には目減りしています。年金には『マクロ経済スライド』といって、年金財政の悪化を防ぎ、将来の給付財源を確保するために物価や賃金の上昇よりも年金額の伸びを抑える仕組みがあります。それが適用されたことによって、今回は本来引き上げるべき水準から0.6%低くなっているのです」
今回の年金額改定のもとになった2022年の消費者物価指数は前年比2.5%の上昇だが、この物価上昇率に追いつくほど、年金額は増えていないのだ。しかも、物価高は上げ止まらず、今年4月は3.5%上昇となっているため“収入と支出”を考えれば、金額はまったく増えていないどころか、大幅に減っていることになる。
「年金額は前年の物価や賃金の変動に応じて毎年4月に改定されるルールのため、実情と金額にはどうしてもズレが生じます。6月からの電気料金の値上げが報じられていますが、だからといって年金が増えるわけでは当然ありません。何より、今後もマクロ経済スライドで受給額は“調整”されていくため、将来的にはさらなる目減りも避けられないでしょう」(北村さん)
これから先、ただ黙って年金を受け取るだけでは物価の上昇に追いつけない。少しでも年金を増やす方法はないだろうか。
「損益分岐点」から考える繰り下げ受給のポイント
もっとも代表的な方法は、受給開始年齢を遅らせて受給額を増やす「繰り下げ」だ。年金の受給開始年齢は原則65才。ところが、1か月単位で遅らせることができ、遅らせれば遅らせるほど、受給額は増える仕組み。
具体的には、1か月遅らせるごとに0.7%増額される。上限年齢の75才まで10年遅らせると、受給額を184%にまで増やすことができる。