マイナンバーを巡るトラブルは終息の兆しが見えない。「政府は欠陥だらけのマイナンバーシステムに拘泥した結果、いまや間違いを認めて引き返すことができなくなっている」とは経営コンサルタントの大前研一氏。10年以上前からシステムの欠点を指摘してきた大前氏が、この制度の本質的な問題点について解説する。
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マイナンバーカードを巡る混乱がますます拡大している。だが、本連載で10年前からたびたび指摘しているように、本質的な問題は20年以上も前の古い技術や仕組みで構築された住基ネット(住民基本台帳ネットワーク)システムに無理やり税・所得、年金、健康保険証などを“接ぎ木”していることであり、それを政府が理解していないから泥沼に陥っているのだ。政治家も役人も、なぜこんな基本的なことがわからないのか、呆れて物も言えない。
最近はマイナンバーカードを健康保険証として使う「マイナ保険証」のトラブルが続発している。たとえば、全国健康保険協会(協会けんぽ)や健保組合などで、マイナンバーと健康保険証の紐付け作業が完了していない人が約77万人に上ることが明らかになった。
岸田文雄首相はマイナンバーに関する総点検が終了する11月末をメドに紐付け作業を完了するよう指示したが、それを担当する現場の人たちは過重労働でいっそう疲弊するだろう。
一方、私の友人が通っている病院によれば、マイナ保険証だけを持参する人は1か月に1人くらいしかいないという。その病院の医師は「マイナ保険証はソフトの起動に時間がかかるし、薬の調剤日や処方内容も紙やスマホアプリのお薬手帳のほうがわかりやすくて手っ取り早い」と言っている。つまり、マイナ保険証が必要だと思っている人は、患者にも医師にもほとんどいないのである。
にもかかわらず、岸田首相は来年秋の現行保険証廃止を強行する方針だ。マイナンバーカードを持たない人に発行される保険証の「資格確認書」については、当初は申請した人にだけ交付するとしていたのに、申請がなくても交付する「プッシュ型」を検討する方向に転換した。しかし、資格確認書を交付するなら、現行保険証を廃止しなければよいだけの話ではないか。
このようにお粗末なマイナ保険証は、今後もトラブルが絶えないだろう。となれば、現行保険証を存続させて併用すべきであることは論を俟たない。マイナンバーカードを普及させるために保険証を“人質”として利用するのは、あまりにも姑息な政府による恫喝だ。