大前研一「ビジネス新大陸」の歩き方

「医師も患者もマイナ保険証を必要としていない」欠陥だらけのマイナンバーシステムに拘泥する岸田政権の迷走

岸田首相は間違いを認めて引き返すこともできないのだろうか…(イラスト/井川泰年)

岸田首相は間違いを認めて引き返すこともできないのだろうか…(イラスト/井川泰年)

 そもそもマイナンバーカードは用途ごとに「利用者証明用電子証明書」など4つの暗証番号が設定されているが、そのうち3つは数字4桁で、残る1つも英数字6文字以上という単純なものである。数字4桁を同じにしている人も多いだろう。これでは情報漏洩リスクは避けられず、詐欺が横行するのは目に見えている。

 すでに山ほどトラブルが起きているのに、もしこのままマイナンバーカードが広く使われるようになったら、日本は大混乱するだろう。しかし、政府は欠陥だらけのマイナンバーシステムに拘泥した結果、いまや間違いを認めて引き返すことができなくなっている。

このままでは「デジタル焦土」

 やはり本連載で何度も説明してきたように、生体認証のないマイナンバーシステムなどあり得ない。すでに同姓同名・同じ誕生日・同じ県内に住む人の紐付けミスが続出している。住民票と違う住所に住んでいる人が少なくない以上、誤登録は避けられない。日本は名前の読み方も複雑だから、生体認証がなければ個人を特定することが難しいのだ。

 アドハーを手がけたIT大手インフォシス元共同会長のナンダン・ニレカニ氏は国民13億人分の指紋・顔・虹彩を組み合わせた生体認証付きデータベースを3年で作り上げたから、彼に任せれば、人口1億2500万人の日本なら1年以内に完成させるだろう。

 そもそも、インドの生体認証、欧米や中国の顔認証などには日本のNECの技術が活用されている。“本家”の日本がそれを使わない理由がわからない。

 岸田首相はことごとく思いつきで政策を決め、批判されるとすぐに軌道修正する。「聞く耳」はあっても、理念も信念も定見もないのだろう。専門家の意見を辛抱強く聞く、という真摯な態度も見えない。福島第一原発処理水の海洋放出と水産業支援、ガソリン補助金など迷走のオンパレードだ。

 このままだと、日本は大東亜戦争と同じく“マイナンバー戦争”に惨敗して「デジタル焦土」と化すだろう。

【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『世界の潮流2023~24』(プレジデント社刊)など著書多数。

※週刊ポスト2023年9月29日号

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