インフルエンサーと呼ばれるのは恥ずかしい?
私の周りにもインフルエンサーは多数います。ツイッター(X)であればフォロワー10万人以上といったところは立派なインフルエンサーと言えるでしょう。しかし彼ら/彼女たちは、自分からインフルエンサーと名乗ることはありません。この手の言葉は、広告業界が勝手に商品パッケージとして作り出すものなんです。
古くはブログの時代、「ブロガーマーケティング」と題し、ブロガーを新商品の試食会等に呼び、その様子をリポートさせたりすることがありました。その時の「ブロガー」はあくまでも趣味の範囲だったので、自分から名乗るのは構わない。その後「プロブロガー」が出てきましたが、実際コレで食っているわけだから普通のブロガーとの差別化で「プロブロガー」も違和感はない。
もっと言うと、世間からインフルエンサー扱いされている人は「インフルエンサー」と呼ばれるのを嫌がります。「いや、オレ、クリエイティブディレクターだけど」「いや、私、ミュージシャンですけど」「いや、私、経営者ですけど」的な反応になりがちです。
一番困るのは、その人のことを誰かが紹介する時だと言っていました。フォロワー数が多いとはいえ、芸能人ではないため、幅広く知られているわけではなく、あくまでもその界隈での有名人といった立ち位置です。まずたいていの場合、初対面では「誰、この人?」という顔をされる。すると同席した人が、「この田中さん(仮名)、インフルエンサーなんですよ」と紹介する。その時の田中さんの胸の内は「木っ恥ずかしいからやめて! 普通に『アートディレクターの田中さんです』と言ってください!」となるようです。
彼ら/彼女たちの頭の中では、「インフルエンサー」という言葉は、「一般人以上、芸能人未満」といった感覚のようです。どこかバカにした語感があるし、紹介する人の「芸能人ではないですが、そこそこ有名な人なんですよ。ネッネッ、私が連れてきたこの人、すごいでしょ!」という気持ちが透けて見えてしまう。
もっとも「インフルエンサー」という言葉を大々的に使ったのは広告業界であるため、冒頭の彼女が自分の職業を「インフルエンサー」と呼ぶのは、それ以外に表現のしようがなかったのかもしれませんね。今回の騒動で、日本の国力の減退を感じると同時に、広告業界の安直なネーミングがそのまま一般用語になっている様に驚いた次第です。何しろ「インフルエンサー」って和訳すると「影響力ある人」です。英語だとカッコイイですが、日本語で「私の職業は影響力ある人です」って言ったら途端にダサくなると感じるのは、私だけでしょうか。
【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は『過剰反応な人たち』(新潮新書)。