吉田みく「誰にだって言い分があります」

初めてフィッシングメールに遭遇した50代女性社員の動揺ぶりに職場が大混乱 「私は無実!」「どうして私が詐欺の標的に?」

「普通に生きているだけなのにどうして詐欺に狙われるの?」

「さっきまで『URLは押さないで!』と止めていたはずのAさんが、呆れた顔で『もう好きにしたらいいんじゃないですか?』と言い出したんです。無責任だなと思いましたが、他の社員さんたちもAさんと同じような反応だったんで、これはとりあえず保留にしておこうと思い、重要なメールフォルダに移し、様子を見ることにしました」

 宅配業者から再度メールが来ることも、閲覧していた通販サイトから荷物が届くこともなく1週間が経過。ホッとしたアオイさんが、今回の件を同居する息子たちに話すと、うんざりした顔で説教されたという。

「『フィッシングメールは誰にでも送られてくる可能性があるんだよ。ニュース見てる?』と言われました。どうして会社のメールアドレスに詐欺犯からメールが来ることがあるのか不思議ですが、最近では珍しいことではないそうです。私、普通に生きているだけなのにどうして詐欺に狙われちゃうんでしょうか……」

 今まで真面目に生きてきたのになぜ詐欺サイトの標的にされてしまうのかよく分からないと、話を聞いている間も終始同じことを主張していた。今回の件がきっかけで「働き続けているといつか詐欺に騙されそうで怖い」と思うようになったそうで、定年後の再雇用は躊躇しているとのことだった。

 誰もがターゲットとなる可能性のあるフィッシングメール。多くの人は不特定多数に向けて送信されていることは知っているものの、ITリテラシーに疎かったり、普段からネットをうまく使いこなせていない人のなかには、アオイさんのような誤認をしているケースも少なからずあるようで、そういう人こそ被害に遭いかねない。もし身に覚えのないメールが届いたら、くれぐれも注意してほしい。

【プロフィール】
吉田みく(よしだ・みく)/埼玉県生まれ。大学では貧困や福祉などの社会問題を学び、現在はフリーライターとして人間関係に独自の視点で切り込んでいる。マネーポストWEBにてコラム「誰にだって言い分があります」を連載中。同連載をまとめた著書『誰にだって言い分があります』(小学館新書)が発売中。

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