副作用の懸念もある。治験における副作用の報告では、898人の被験者に対して脳血管から液体が漏れたことによる脳浮腫が12.6%、脳内で血液が漏れる点状出血が17.3%の割合で見られたという。また、治験後に継続して同薬を投与された被験者のうち2人が脳出血や浮腫で亡くなったと報告されている。
エーザイは「レカネマブに起因する死亡ではない」と発表している。だが、東京大学大学院医学系研究科教授で日本認知症学会理事長の岩坪威医師は「安全性がネックとなり治療のハードルが上がる可能性がある」と指摘する。
「安全性の確保が課題になるため、レカネマブを投与できる病院は限られるでしょう。専門医がいてアミロイドPETや脳脊髄液検査やMRI検査ができる大きな病院になる。そして、治療が始まれば2週間に1度の割合で約1時間、点滴での薬の投与を続けることになります」
負担に対して効果が見合うのか、ケースバイケースの判断が求められるという。
次世代の“夢の新薬”
レカネマブは認知症治療に風穴を開けることが期待される存在だが、現在、これに続く新薬の研究も進んでいる。
同時期に厚生労働省に承認申請が提出され、来年度中の承認を目指すのが米製薬大手イーライリリーの「ドナネマブ」だ。
「レカネマブと同様に抗アミロイドβ薬ですが、アミロイドβを除去する力が強く、治験では認知症の進行速度を35%抑えました。そして、レカネマブと比べて硬く固まった状態のアミロイドβ凝集体も除去できると期待されています。ただし、治験でレカネマブの約2倍の脳浮腫が報告されており、副作用も課題です」(岩坪医師)