無料サービスをやめたら利益が増えるケースも
私も牛丼屋で、牛丼の上をビッシリと紅生姜まみれにする客を見かけたことがあります。どう考えても大量過ぎるように思うのですが、本人は「別に量の制限はないのだから私の勝手だ。私は紅生姜が大好きなのだ」と主張するでしょう。
しかし、これをやる客が一定割合を越えると、店としても看過できなくなる。当然原価がかさむうえに、「紅生姜丼だ!」などとSNSに公開されてネタにされるとマネする客も出てしまう。
あくまでも紅生姜や高菜は店側のサービスで置いてあるわけで、ラーメンや牛丼に少し加えることでよりおいしくするもの。それら無料のものをどっさり取ることは店は想定していないのに、それをやる者が時々いる。となると、こうした客対策として、これらが撤去される事態になり、「全体不最適」状態になってしまうのです。
以前、某日本そばチェーンの社長が、卓上にサービスで置いていたネギをやめたところ、利益がかなり増えたと言っていました。それまでネギは入れ放題だったのですが、あまりにも多く入れる客がいたのでしょう。過剰なネギの使用が利益を圧迫していたのです。
私も同チェーンでネギを追加で入れていましたが、かけそばの上にネギをザッパーンと器から全部入れる客を見たことがあります。「お前、やり過ぎだろ……」と思ったのですが、彼にとっては「無料のものを食べて何が悪い?」という感覚だったのでは。
こうした常識外れの客が増えていけば、たとえば牛丼チェーンなんかだと、持ち帰り用の小袋入り紅生姜と七味唐辛子を店内で1袋ずつ提供する形になるかもしれません。節度をもってこれら無料のものは利用すべきでしょう。大量に使う人はそれらが大好きなのかもしれませんが、あなた方のせいでこうしたものが自由に取れなくなる未来が待っているかもしれませんよ。
【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は『過剰反応な人たち』(新潮新書)。