ある日突然、連れ合いに先立たれて「ひとり」に──そうなる可能性は、夫にも、妻にもある。だからこそ夫婦で元気なうちから「必要な備え」を知る必要がある。準備を怠れば、「葬儀」でも残された妻が困ることになる。1年前、夫を亡くした都内在住の80代女性が語る。
「生前、夫は自分の葬儀について『どうでもいいよ』と曖昧に語っていたのでこぢんまりした家族葬にしたんです。すると葬儀が終わってから夫の友人や親戚から『最後のお別れをしたかったのに、なぜ呼んでくれなかったのか』との苦情が殺到しました。夫の交友関係がそんなに広かったとは知らなくて……安易に家族葬で済ませてしまったことを後悔しています」
こうした事態を防ぐには、生前に夫婦で情報の共有や決め事をしておくことが肝要だ。佐藤葬祭代表の佐藤信顕氏が語る。
「葬儀は本人と家族だけでなく、“見送りたい”と望む知人や親族の気持ちが絡みます。その点を押さえたうえで生前に夫婦で話し合い、『葬儀に呼ぶべき人』を連絡先とともにまとめておくのが最善です」
喪主や遺影も決めておく
さらに意外と盲点になりやすいのが、「喪主」や「遺影」だという。佐藤氏が続ける。
「葬儀は決定事項が多く、喪主の心労が重なります。実際、夫に先立たれた高齢の妻に気力や体力がなく、残された子供たちが喪主を押し付け合うケースがよくあります。夫が生前に“誰に任せるか”を伝えておくことが大切です。それだけで遺族の気持ちは楽になります。
遺影についても、高齢になるほど看護や介護が大変になり、よい表情を撮影する機会が少なくなります。残された妻がどの写真を使うか悩むケースも多いので、生前に自分の希望を伝え、焼き増しして妻や子供たちに渡しておきましょう」
高齢になったら、身の回りの物品の生前整理も進めたいが、一気に行なうと寂しい気持ちになって心身が疲弊することがあるので注意したい。
お墓の整理も後回しにせずに実施する。先祖代々のお墓が遠方にある場合などは墓じまいや改葬が選択肢となるが、まずは話し合いが必要だ。
「お墓は自分たちだけでなく、未来に続く子孫の持ち物でもあります。墓守りをしてくれる子や親戚がいない人も、まずは菩提寺や地元の石材店に相談してみれば、現実的なアドバイスがもらえるはずです。そのうえでお墓の整理を考えていきましょう」(佐藤氏)
どちらが先に亡くなっても、互いに感謝し合えるような準備を進めておきたい。
※週刊ポスト2023年10月27日・11月3日号