中国辺境の地が今、ロシア人観光客で溢れかえっている。中国・ロシア間で9月中旬、ビザなし団体旅行業務が再開されると、黒竜江(アムール川)を挟み、対岸のブラゴヴェシチェンスクまで船で数分の距離にある黒河では、ロシア人が大挙して現れるようになった。
ロシア人観光客たちは朝市にも押し寄せている。ロシア人の朝食はヨーグルト、ハム、卵焼きといった西洋式であり、彼ら/彼女たちにとって物珍しい包子(肉まん)、餃子、油条(揚げパン)、豆乳、お粥などの屋台(売り場)に行列ができる。街中では、衣料品、帽子・靴、日用品からスマホまで、何でも売れる。黒河で売られている商品はロシア国内の商品と比べ、品種が多く、質が高いようだ。
また、診療所を訪れるケースもある。ロシアでは医療サービスを受けるためには事前の予約が必要で手続きが面倒だ。しかし、中国の診療所はどこでも年中ほぼ無休で、数も多く、待たされるようなことは少ない。そのため、わざわざ点滴を受けるために対岸から国境を越えてやってくる女性もいるそうだ。
一方、黒河からブラゴヴェシチェンスクに向かう中国人客も多い。ショッピングよりも、異国風情を楽しむために訪れる旅行者が多いようだ。
黒河から対岸に渡るには、船に乗るほか、橋を使うルートもあるが、そちらは大型トラックや乗用車で長い渋滞の列ができている。10月19日付の中国ネットニュース(大風文字)によると、このあたりのガソリン価格(オクタン価92)は安くて1リットル8.5元(174円、1元=20.5円で計算)程度だが、対岸のロシアでは同じクラスのガソリンが4.5元(92円)以下で買えるそうだ。冬の最低気温は氷点下30度を下回り、電気自動車は使えない。中国北方の生活者にとって、ガソリン価格が安いことはありがたい。
ロシアから電力を中国に輸出する計画
米国をはじめその同盟国はロシアを孤立させようとしているが、中国とロシアの結びつきは強まる一方だ。
習近平国家主席が一帯一路戦略を提唱し始めて10年が経過したことを受け、10月17、18日に、北京でサミットフォーラムが開催されたが、この会議に国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状が出ているプーチン大統領が来賓として招待されている。
プーチン大統領にとって今回の北京訪問は、経済関係を強化する大きなチャンスでもある。中でも、ロシアがもっとも期待するのはサハリン2プロジェクトで供給される天然ガスの売り込みとみられるが、機はまだ熟していないようだ。中国側はロシアに対するエネルギー依存度の高まりを警戒している。ロシアはインドに対して格安に原油を供給しており、価格交渉においても開きがあるようだ。
一方、同行したロシア極東・北極発展省のアレクサンドル・コズロフ大臣は17日、中国国家エネルギー集団がロシアで風力発電所を建設し、電力を中国に輸出する計画があると明かしている(スプートニのSNSより)。ウクライナへの侵攻以来、欧米諸国からの厳しい制裁を受けてロシアは経済面、特に資金面で大きな困難を抱えている。中国側に資金を出させる形でのプロジェクト開発はロシアにとってありがたい。今回のプロジェクトが成功すれば、これが呼び水となって、中国企業によるロシアへの直接投資が一気に加速するかもしれない。