老人ホームの入居者が亡くなった場合、ホームからの返還金が発生することがある。相続財産となる返還金をめぐるトラブルについて、実際の法律相談に回答する形で、弁護士の竹下正己氏が解説する。
【質問】
母は介護付き有料老人ホームに入居していましたが、今年亡くなりました。母の入居にあたっては、私と叔母が保証人になりました。
母の死後、ホームからの返還金が数百万円ありましたが、私は仕事が忙しかったため、叔母にホームとのやり取りをお願いしました。すると、叔母は返還金を自分の口座に振り込んでしまい、私に返してくれません。母のお金なので相続するのは私ですが、どうしたらよいのでしょうか。(長野県・55才・会社員)
【回答】
お母さんの死亡で発生する返還金は相続財産になり、あなたが唯一の相続人であれば、あなたが単独で相続します。叔母さんには権利がありません。権利がない人への支払いは無効で、ホームには返還金の支払債務がまだあるから、ホームに請求すればよい──と言いたいところですが、ホームにも反論の余地がありそうです。
多忙なあなたは叔母さんにホームとのやり取りを任せていました。そこで「叔母さんがあなたの代理人だから、返還金受領の代理権がある」とホームは主張するかもしれません。しかし、あなたが受け取りを委任したわけではないので、叔母さんは返還金受け取りの代理はできません。
それでもホーム側は、「あなたがホームとの日常的なやり取りを叔母さんに一任していたから、その委任の範囲を超えたとしても、代理権があると信じる正当な理由があった」などと反論する可能性があります。これは「表見代理」という制度に依拠するものですが、高額の返還金受領は、日常的なやり取りとは質が異なります。例えば、預かり金の納付手続きを代行したことがなければ、代理権があると信じたことに過失があるといえ、正当な理由は認められないと思います。