しかし、「債権の準占有者への弁済」という制度があり、「取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有する者に対してした弁済」は、権利がない者に対する弁済であることについて故意・過失がなければ有効です。
例えば、叔母さんがふだんからお母さんの面倒を見て、実質的な後見役としてホームに出入りし、あなたが一任していることがホームに知られていたような場合で、預かり金の証文を提示して返金を請求したようなときには、権利者でなくても、受領を任されるなどした受領権者の外観を有する者といえそうです。
その場合でも、入居者死亡による預かり金の返金は、ホームでも非日常的な事態であり、本来の受取人であるあなたに確認するか、委任状の提出を求めるべきともいえ、無過失といえるかは争点になります。とはいえ、ホームに対する請求がうまくいくかは諸般の事情に左右されます。
一方、叔母さんは理由なく返還金を取得した利得があり、ホームの弁済が有効ならあなたは損失を被ったことになるので、叔母さんに不当利得として返還を請求できます。叔母さんに資力があれば直接叔母さんに請求した方が早いかもしれません。ホームに対する請求とは両立せず難しい選択です。弁護士の助言を求めるのがよいでしょう。
【プロフィール】
竹下正己/1946年大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年弁護士登録。射手座・B型。
※女性セブン2023年11月9日号