いずれの剥製も、経年劣化を感じさせない美しさだ。
「剥製は、骨・筋肉・内臓をしっかり除いて管理状態を良好に保てば、何百年も持つんです」
生前の姿をとどめながら、半永久的に“生き”続ける剥製たちの収蔵庫は、不思議な生命力に満ちていた。
“標本バカ”を醸成したロシアの博物館
剥製や骨などの標本は、どんな役割を担っているのか?
「標本は、動物がどういうふうに変異し、形態変化を獲得してきたのかを知る1つの材料になります。よって、標本数が多ければ多いほど、変異を発見する可能性が高まると考えています。端から見れば、同じようなものばかりじゃないかと思うかもしれませんが(笑い)」
標本を語るのに、川田さん以上の適任者はいない。なぜなら、『標本バカ』(ブックマン社)なる本を出版するほど標本を愛し、標本を究めているからだ。
当然、川田さんが科博に来てからの標本数は右肩上がり。
「科博の哺乳類標本には登録番号が付されています。ぼくが2005年4月に科博に就職して標本管理を引き継いだとき、番号は3万3000番台でしたが、いまは8万5000番台。17年で5万2000点増やしたことになります。10万点を目標に掲げてやってきましたが、もうすぐそれも達成できそうです」
川田さんが標本にこだわるのは、大学院時代に留学したロシアでの経験が大きいという。
「ぼくも一般の人と同様に“博物館=展示施設”だと思っていました。しかし、モグラを調べるために訪れたロシアの博物館では、展示はまったくしておらず、ひたすら “標本の収蔵庫”だったんです。
その博物館には、ぼくが調べたかったモグラの標本が1700点以上あった。モグラは、それほどメジャーな研究対象ではないのに、です。おかげで、ひと冬かけて全標本を調べ上げ、2本の論文を書き上げることができました」