株価は堅調。業績への影響はないと予想されている
中国には「一粒のネズミの糞で一鍋の粥がダメになる」といったことわざがあるが、とりあえずこの件は、一滴の尿も製品に混入することはなく、一件落着となったようだ。
調査結果の発表を受けて青島ビールも公告を出しており、「今後、原材料の輸送に使う車はすべて密閉式に変え、作業員が原材料に触れることのないようにする」「外注先企業の作業員に対する管理を強化し、教育訓練を徹底させる」「今回の事件の責任の所在を明らかにして責任者を厳しく処罰する」などと約束している。
この事件による業績への影響だが、同車の株価(上海A株、証券コード600600)を見ると、問題が発覚した後の最初の取引日となる10月23日の寄付は前営業日終値と比べて6.8%安、直後の安値では7.5%安まで売られたが、その後は戻しており、終値では0.4%安にとどまっている。24日には2.8%安と売られたが、その後3連騰しており、27日の終値は、事件が明らかになる直前の20日の終値に対して4.1%高い水準となっている。少なくとも大半の投資家は、この事件の業績への影響は軽微だと予想しているようだ。
青島ビールの販売量(2022年)は807万キロリットルで、華潤ビールの1109万キロリットルに次ぎ、中国本土業界第2位である。事業規模を拡大する過程で積極的な買収を繰り返しており、2022年末時点で20省・直轄市に59工場が分散している。製品の標準化、品質の面で不安は残るが、資金力があるので生産設備の更新は進んでいる。
問題が起きた青島第三工場だが、前身は国営の青島北海ビール工場で1986年に建設されたが、2012年2月に青島ビールに吸収合併されている。積極的な設備投資によって近年、生産能力は拡大、2018年には75万キロリットルであった生産能力は2022年末には120万キロリットルまで増えている。同時に、設備の自動化、AI化も進んでおり、世界でも最先端の設備を有している。
ただ、瓶の洗浄、充填、殺菌などの製造過程や、生産効率にばかり目が向き、もっと下流の部分、原材料やその取り込みにまでは、気配りができてなかったようだ。
日本には、中国製品に限らず大量の加工食品が輸入されている。日本の当局はその生産プロセスまでは監視検査できない以上、水際段階での厳重な検査が望まれるところだ。
文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」も発信中。