しかし、上司がAさんの反論を受け入れている理由として次の2つが考えられます。
【1】Aさんの言い分がもっともな場合
【2】単にトラブルを避けている場合
【1】の場合は、上司の命令が会社にとってプラスにならないと判断できれば、指示への反論は正当な理由に基づくものといえるので、懲戒事由にはならないと思います。【2】の場合、自分勝手で理屈の通らない反論でも、上司が対応しないで受け入れてしまうと、職務命令を撤回したことになり、不服従になるかは疑問です。あなたが気に病んでも、上司が毅然として対応しなければ事態は打開できません。上司の対処法とその後の展開として、次のように考えられます。
指示に従わないAさんに職務命令への不服従になることを明確に告知し、職務遂行を命令したにもかかわらずAさんが従わない場合には、就業規則に従った懲戒手続きにより、懲戒処分の要否やその処分の内容が判断・決定されることになります。職務命令への不服従は、職場の秩序を脅かし、職場全体の士気や就労意欲を失わせかねない危険な行為であり、懲戒解雇という厳しい処分が適用される可能性があります。とはいえ、解雇は従業員の生活基盤を奪うので、重大な職務命令違反を除き、一度の不服従だけで直ちに懲戒解雇できるか疑問です。不服従とこれに対する説諭や軽い処分を繰り返しても改めないことが必要です。
そこで、何時いかなる職務命令に、どのように従わないのか、そのためどのような不都合が生じたか、さらには処分歴を記録し、懲戒解雇の正当性を根拠づける証拠を残すことが大切です。
【プロフィール】
竹下正己/1946年大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年弁護士登録。射手座・B型。
※女性セブン2023年11月23日号