当局による財務面からの締め付け、業界全体の不況、汚染による風評被害による極度の販売不振などにより、ディベロッパー側が資金不足に陥り、土壌処理に問題が生じたのかもしれない。苦し紛れに責任を販売元に押し付けようとしているのかもしれない。中国メディア(新浪財経11月10日付)はこの事件について「毒地事件“羅生門“!」などの見出しを付けて報じている。
中国でも芥川龍之介の「羅生門」が読まれているようで“お互いに自分の言い分を主張しあっていて、どちらが正しいのかわからない(善、悪の区別がつかない)”といった意味でこの言葉を使っているようだ。
原告、被告ともに経営陣からすれば譲歩は難しい
問題の根は深い。一部の業者からみれば、現在の不動産市場は地獄の入り口に差し掛かっている。原告のディベロッパー側に“責任があるのでは”と決めつけるわけにはいかないが、バブルにあおられ高すぎる価格で土地を仕入れてしまった過ち、少しでも早く資金を回収しようと、法律を軽視し、強引に工期を短くしてしまった過ち、いろいろな過ちに対して審判が下ろうとしているのかもしれない。
誰かが責任を取り、汚染物質を取り除く(あるいは用途を変更する)ために必要な膨大な費用を負担せざるをえない。
蘇鋼集団の親会社は平安保険であり、深セン市政府が株主となっている。また、上海陸家嘴の大株主は上海市政府である。こうした関係から市政府同士がうまく話し合えば良いようにも思う。しかし、平安保険は香港、本土の上場企業だ。当局同士が話し合いで決め、平安保険(蘇鋼集団)側が賠償金を払うことにでもなれば、株主から代表訴訟を起こされかねない。そもそも筆頭株主はタイ最大の財閥であるチャロン・ポカパンで発行済み株式総数の6.52%を保有、深セン市政府の持ち株比率は5.27%に過ぎない。
一方、上海陸家嘴の経営者は上場企業のトップとはいえ公務員だ。彼らの経営方針は利益の最大化などではない。経営に問題がなく、業績が安定し、自分たちが人事上、減点されないことが最大の目標だ。大きな損失を被るような決断をしたとすれば、自分たちの責任が問われることになる。
原告、被告ともに経営陣からすれば、譲歩は難しく、裁判に持ち込むしか解決の方法がなかったのだろう。
こうした修羅場は、大なり小なり、水面下でたくさんあるのではないか。中国不動産市場の回復の道は険しい。
文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」も発信中。