歌手・タレントのアグネス・チャンがテレビ収録に“子連れ出勤”したことの是非を巡る「アグネス論争」が新語・流行語大賞にノミネートされたのは、1988年のことだ。それから30年以上が経ち、今また“子連れ出勤”の是非が注目を集めているという。令和の世でその舞台となったのは、テレビ局ではなく、介護現場だった――。
市役所の福祉課から呼び出しがかかった時、佐伯美智子さん(49)は思わず「なんで?」と呟いた。佐伯さんは佐賀県唐津市で訪問介護などのサービスを提供する合同会社MUKUの代表を務める。正職員、パートタイム勤務を合わせて30人ほどのスタッフを抱えるMUKUには、子育て世代の介護・看護職員も多い。
発端は11月の初め、X(旧ツイッター)の公式アカウントにポストした1枚の写真だった。在宅で介護サービスを利用する男性の自宅で、若い女性介護職員が作業をする傍らには生後9か月の赤ん坊が座っていた。カメラのレンズを赤ん坊のつぶらな瞳が見つめている。
写真に映る女性介護職員が、赤ん坊の母親だ。我が子を連れて利用者宅を訪問している様子を捉えた1枚だった。MUKUでは、子育て世代の職員を応援する取り組みのひとつとして、子連れでの出勤を許している。
佐伯さんはXへの投稿に際して、批判的な意見が出る可能性が頭をよぎったというが、投稿後は〈すばらしい〉〈利用者さんにとっては癒やし〉〈こういうことも普通に受け入れられる社会がいいですね〉など、この取り組みに賛成する書き込みが多く、安心していた。
ところがXへの投稿から数日後、唐津市の福祉課から連絡がきたのだ。
「“介護職員が子連れで仕事現場に行くのはいかがなものか”という市民からの通報があったそうで、説明に来るよう求める連絡でした」(佐伯さん)