中国・不動産大手「恒大集団」が経営危機に陥り、中国国内の不動産市況は悪化。それに加えて、若者の高失業率や外資撤退の加速など、中国・習近平政権は様々な問題に直面している。これらの問題について経営コンサルタントの大前研一氏は「解決策は明快だが、実現の可能性は極めて低い」と考える。どういうことか、大前氏が解説する。
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今年3月の全国人民代表大会(全人代)で中国首相を退任したばかりの李克強氏が急逝した。68歳だった。あまりにも早い突然の死は世界に衝撃を与えた。死因は心臓発作と発表されたが、経緯の不自然さから「粛清」「謀殺」説が燻り続け、中国では全国各地で李前首相を追悼する動きが広がった。習近平政権は、これが反政府デモに発展して「天安門事件」の二の舞になることを警戒していたという。
今や中国は、国家の中枢にいた人物が忽然と姿を消す国になった。7月には昨年12月に外相に就任した秦剛氏が、10月には3月に国防相になった李尚福氏が、理由の説明なく相次ぎ解任された。外国要人とも会合を重ねていた重要閣僚でありながら、ともに在任期間がわずか半年余という前代未聞の事態である。
すでに私は本連載で、国家主席3期目に入った習近平は「ヒトラー化」して「独裁者のジレンマ」に陥っていると指摘した。独裁体制は強固になればなるほど責任がトップに集中するが、いま中国が抱えている「不動産危機」「若者の高失業率」「外資撤退」という経済の3大問題は、すべて“習近平発”であり、解決の糸口が全く見えないまま、悪循環を繰り返している。
習近平の失政も 「天は見ている」
このように、中国は非常に深刻な難問をいくつも抱えているわけだが、それらはすべて習近平の“身から出た錆”であり、したがって本人から解決策は出てこないだろう。だが、もし私が中国の国家コンサルタントになったら、すぐに解決できる。どの問題も原因がはっきりしているからだ。
たとえば不動産危機については、世界最大の資産運用会社ブラックロックのラリー・フィンクCEO(最高経営責任者)を呼んできて債権回収を依頼する。そうすれば、同社は「融資平台」の債務2000兆円を10分の1の200兆円で買い取り、1か所ずつ地方政府と一緒に「鬼城」のインフラ整備をしながら、全国的には30年ぐらいかけて街づくりを進めるだろう。
若者の失業問題は、4~5年前までの経済最優先の中国に戻り、「BATH」(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)などの世界的にも有望な企業が自由に発展できるようにすればよい。それによって経済が好転し、雇用が増えて若者の失業率も減少する。
また、外資撤退問題は、以前のような外資企業優遇策を取り、「改正反スパイ法」のスパイ容疑の定義を明確にして外資企業の不安を払拭することが肝要だ。