一時の感情に任せての書き換えは慎みたい
曽根さんの知るある家族は、立派な自宅を残して亡くなった母親が長男にのみ遺産を残し、長女と次女には何も残さないよう遺言書を書いた。
「姉妹は法律に基づいて遺留分を長男に請求しました。ところが母親の預金はほとんどなく長男も充分な預貯金を持っておらず、相続した自宅を売却して遺留分を支払いました。母親が遺留分を考慮して自宅を賃貸併用住宅などに建て直して遺留分を少なくし、受け取る家賃で預金も残すようにしていれば、自宅の売却は避けられたかもしれないだけに残念です」(曽根さん)
ただし、いくら具体的に内容を記し遺留分に配慮して書き換えたとしても、遺言を不公平だと感じ『犬神家の一族』のような骨肉の争いになる可能性は否定できない。トラブルを避けるには、遺言の最後に家族への思いを「付言事項」として書き残すことが有効だ。
「“長年介護をしてくれた長女に多く残したい”など遺産分割の理由をきちんと説明すれば、遺言を書いた本人の気持ちを家族が理解して、トラブルを未然に防ぐ効果があります」(中岡さん・以下同)
遺言書は家族でシェアするものだが、特定の子供にだけ伝えたい思いがある場合は、遺言書と一緒に個別の手紙を準備することも効果的だ。
また、一時の感情に流されたり、酔いに任せて遺言書を書き換えることは厳に慎みたい。
「感情が高ぶり“次女には相続させない”などの一文をつい書き加えて後々トラブルになることがあります。そうした一時的な怒りを避けるため、遺言書を書き換える際は必ず従前の遺言書を撤回して、最初から遺言書を書くこと。労力がかかるので、書いているうちに落ち着き、冷静な判断ができます」
書き直した遺言書は、家族に見せて確認を取ることを曽根さんは推奨する。
「よく“内容を教えたら揉めるのでは”と聞かれますが、教えて揉めるなら、教えなかったらもっと揉めます。なので、遺言書の内容を子供などに伝えて反応を見て、トラブルになりそうなら再考すればいい。遺言書の内容を決めるのは親の意思なので、“私はこう決めた”と堂々としていればいいんです」
大切な家族が、死後争うことのないよう、遺言書の作成・書き換えは慎重かつ丁寧に行おう。
※女性セブン2024年1月1日号