この女性は家族4人で都内のUR賃貸住宅で暮らしている。家賃は月16万円。東京五輪が終わったら不動産価格が下がると期待していたが、むしろ上がってしまったので住まいを購入できていない。今の住まいは古いが広くて快適で、周辺にスーパーも複数あって暮らしやすいという。
「子どもの友達の家にお呼ばれに行くと、分譲マンションはキッチンが大理石なこともあって、うらやましくなります。でも、そういうお宅は中学受験をさせるかというとそうではないこともある。どこにお金をかけるかの差だなって思っています」
つまり、正社員と派遣社員やパートタイマーの夫婦の場合、もしくは正社員同士でも収入が平均に届かないと、タワーマンションが象徴するような分譲マンションと中学受験は、「どちらか一方を選ぶ」という選択を迫られるケースも多いのではないか。
“平凡じゃない”幸せな生活
タワーマンションに住んで、子どもをサピックスに通わせ、私立中高一貫校に通わせるのは、庶民でも頑張れば手が届くものかもしれない。だからこそ、反感も買いやすい。
漫画『タワマンに住んで後悔してる』(KADOKAWA、窓際三等兵原作・グラハム子漫画)の中で、主人公である専業主婦の舞は、夫と息子と3人でタワマンに引っ越した時にこう思う。
「今日から始まるんだ 私たちの“平凡じゃない”幸せな生活が」
そんな舞は、タワーマンションではみなが中学受験をさせると知れば、自分も子どもを塾に入れる。そうやって、「平凡ではない私」という自覚を強めていく。
この舞の夫は損保会社の社員で、引っ越す前は九州にいた。新しい住まいは42階建てのタワーマンションの6階だ。ごく普通のサラリーマン家庭の主婦がタワーマンションに住んで、子どもを中学受験させることで「自分たちは平凡ではない」という自意識が生まれていく。
タワーマンションのエントランスなぜ過剰に豪華なのか。築40年の分譲マンションにはないものだ。タワーマンションの内覧に行ったという会社員はいう。
「エントランスも外観もデザイン性が強いと30年後には時代遅れになりかねない。もっとシンプルにして、その分、販売価格を下げてくれればいいのにと思いました」
しかし、それでは購入者を引きつけられないのだ。「ワンランク上の生活を提供する」という打ち出しが大切だからだろう。実際、タワーマンションのセールスコピーを見れば「開放感とアートが融合するエントランス」「華やかに発展する都市の一角のレジデンス」等々の付加価値がある暮らしをアピールしている。そして、この「ワンランク上に行けますよ」という謳い文句は中学受験も同じだ。