才能と遺伝に関する研究が話題になったが、学力と遺伝はどこまで関係があるのか。中学受験の出題傾向が昔と比べて変化しており、かつて親が合格できた学校に子どもが簡単に合格できないような状況も出ているという。『中学受験 やってはいけない塾選び』(青春出版社)などの著書があるノンフィクションライターの杉浦由美子氏がレポートする「中学受験家庭を悩ませる、遺伝と学力の関係」の第5回。【全6回。第1回から読む】
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「遺伝が学力に影響をする」。これを聞けば多くの人が「心当たりがある」と思うのではないか。しかし、中学受験を取材し続けている私は「高学歴夫婦の子ども」の受験がうまくいかないケースもたくさん見てきている。
行動遺伝学の第一人者、安藤寿康・慶應義塾大学名誉教授が公表しているデータによると、たとえば9歳児の学業成績は国語が6割、算数が約7割、中学生以降の数学の才能(いくつかのテストをして能力を測ったもの)は8割が遺伝とされる。知能は遺伝による影響度が高いようだ。残りの部分は努力で差が出るわけだが、高学歴な親の子が、親から「知能」を受け継いで、努力をしても受験がうまくいかないケースは往々にしてある。
その中でも私が取材を通じて遭遇したのは、「代々慶應の家系が子どもの受験に苦戦をする」というパターンだ。
中学受験を描いた漫画『二月の勝者』(高瀬志帆 小学館)で、代々、みな慶應の家に嫁いだ女性が子どもを慶應系列の中学に入れようと必死になるエピソードが出てくる。
彼女自身は慶應出身ではない。そして、子どもの知能は母親の遺伝が強いという説を口にし、子どもが慶應に入れなければ、自分のせいにされると嘆く。夫やその両親からの「子どもを慶應に入れろ」というプレッシャーが強いのだろう。
一般的にこんなエピソードは漫画でしか見ないかもしれないが、私のように多くの受験生保護者を取材しているとリアルで遭遇するのだ。
慶應の付属中学が求めるものの変化
「慶應出身者、特に中学ぐらいで慶應に通っていると、一部にはエリート意識を持つ人もいます。そうした境遇を子どもに受け継がせるために、子どもを幼稚舎(小学校)や中学から慶應に入れようと考えるわけです。幼稚舎受験は学力以外の部分も求められるので、なかなか手が出せない部分がありますが、中学受験は勉強さえできればいいのでのめり込むケースはしばしば見ます」(塾関係者)
今、受験は大きく変化をしつつある。早稲田の看板学部、政経学部が入試で数学を必須にした。平成にかけては、受験で必要とされる学力は暗記だった。しかし、AIが普及しつつある今、知識はネットで調べれば入手できる。そうなってくると、求めるものは暗記力ではなく、論理的な思考力や記述力、読解力になってくる。