「私とあなたは《選民仲間》」
子どもを同じ塾に通わせることで交流は増えていく。サピックスは親のやることも多い塾なので、親同士のコミュニケーションも濃くなっていく。その中で、違和感は増していったという。
「『21階のあそこのお嬢さん、公立中学なのよね』って言ってくることも。公立中学もいいじゃないですか、近いし学費も安く済むし。うちだって公立中学に行ってほしいけれど、陰キャだから私立女子校の方が合うと思ってサピックス通わせてるだけなんだけど」
A子さんはテーブルをバンバン叩く。
「ようは“私とあなたは同じようにいい高校やいい大学を出ていて、タワマンに住んで、子どもをサピックスに通わせている《選民仲間》よね”っていうことなんですよ。うちは共働きでペアローンを払っているのに。たぶん、彼女のところは親が頭金とか出しているんじゃないですか」
その相手と距離を取りたいが、そうもいかないという。
「そのママは塾へ自分の子どもをお迎えに行くので、ついでにうちの子も連れて帰ってくれるんです」
その対価として、週末にランチをごちそうし、「あそこにある賃貸マンションに住んでいる子がサピックスでα(上位)クラスにいて、麻布を狙ってるらしいの。上昇志向が強いのね」といった鼻持ちならない話に相づちを期待してくる。
「ああいうママがいるから、タワマン住民や中学受験への反発が生まれるんじゃないでしょうか」
タワーマンション住民のママ同士のいざこざについては、私も目の当たりにしたことがある。たくさんの家庭がある分、対立も生まれやすい。そして、「タワマンに住んでサピックスに通わせる」というライフスタイルを送るママたちの間でも、選民意識を持つママと、それに反感を覚えるママの対立があるのだ。
【プロフィール】
杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ)/ノンフィクションライター。2005年から取材と執筆活動を開始。『女子校力』(PHP新書)がロングセラーに。『中学受験 やってはいけない塾選び』(青春出版社)も話題に。『中学受験ナビ』(マイナビ)では小説『ボリュゾっていうな!~ギャルママが挑む“知識ゼロ”からの中学受験ノベル~』を連載。