たしかに埼玉の受験生のママたちを取材していると、その熱心さに圧倒されることがある。
世田谷区や港区といった中学受験率が高い地域だと、「周りがみんな受験をするからうちもさせる」「中学受験をさせるのがステイタスだから」といった軽いノリの受験も多い。塾の関係者たちが「難関校を狙うわけではないのに、サピックスやグノーブルに通わせる親御さんたちはなにを考えているのか」と首を傾げるが、「エリート塾に子どもを通わせる」こと自体に意味を見いだす層がいるのだ。
吉祥寺や自由が丘といった東京の塾が数多く集まる地域で平日に味はともかく長居しやすいビストロでランチをすると、サピックスやグノーブルママたちに遭遇する。トレンドの服を着こなす、小洒落た人たちだ。彼女たちは、必ずしも子どもを御三家などの難関校に入れたいわけではないが、エリート塾に通わせていることに満足しているようにも見える。
だが、そんな風景は埼玉にはない。
埼玉なら女子でも中学受験を回避できる
「大宮や浦和は、二子玉川や白金高輪ほどには中学受験率は高くありません。『タワマンに住んでサピックスに通わせている私って、端的にいって幸せすぎる』みたいな人は少ないですが、その分、ママたちが真面目で泥臭いですね」
そう話すのは、埼玉県の大宮地区のタワーマンションに住むB子さんだ。彼女はプログラマー。自分はリモートワーク中心になったので、夫の勤務先に通いやすい埼玉に引っ越してきた。娘が二人いて、その子たちの受験も考えて埼玉を選んだ。
「東京だと一定以上の学力の女子は高校入試の選択肢が限られるため中学受験をせざるを得ない。一方で、埼玉は県立の大宮や浦和女子は進学校ですし、淑徳与野や栄東といった私立進学校も高校入試をしています。中学受験をさせなくてもいいのが魅力だなと」
B子さん自身は私立中高一貫校出身だったが、授業や教師の質がよかったとは思っていないという。
「それなりに勉強して入った学校なのに数学の先生の授業が微妙だったんですよ。あと、英語も無駄に宿題が多くて、その内容がいいとは思えなかったですね」
いじめがあって被害者が教師に相談をしてもなんら対応をしてくれないことにも疑問があったという。
「大学の同級生や同僚に浦和一女や川越女子出身の子たちがいましたが、みんなさっぱりした性格で、しっかりしている。娘もそんなふうに育てたいから、公立に進学させようと思いました。学費が安く済むのも助かりますしね」