政府が取り組むべき政策は「賃上げ」より「利上げ」
ところが岸田首相は、経団連の十倉雅和会長や連合の芳野友子会長らとの「政労使会議」において、デフレ脱却のために春季労使交渉(春闘)で前年を上回る水準の賃上げを実現するよう要請した。これを受けて連合は、2024年春闘の賃上げ要求水準を2023年の「5%程度」より表現を強めて「5%以上」とする闘争方針を決定した。
もちろん働き手にとって賃上げは重要だ。しかし、政府主導の“官制賃上げ”ですべての企業・従業員の給料が上がるわけではない。しかも、厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、物価変動を反映させた9月の実質賃金は前年同月比2.9%減で、18か月連続のマイナスとなっている。
つまり、日本経済を上向かせるために政府が取り組むべき政策は、「賃上げ」要請よりも「利上げ」なのだ。約650兆円もの現預金を持っている高齢層の財布の紐が緩んで市場にカネが出てきたら、すぐにデフレからも脱却できる。
このままいけば、アメリカの高金利に引っ張られて日本の長期金利も徐々に上がるだろう。しかし、これから日銀は積極的に金利を上げ、高齢層の個人金融資産というサウジアラビアの原油よりも豊かな“鉱脈”を掘り出さねばならない。
ただし、利上げすればモラトリアム(支払い猶予)で延命されていたゾンビ企業が倒産するだろうし、利払いが増える国債のデフォルト(債務不履行)による国家破綻のリスクも高まる。まさに綱渡りの金融政策と財政運営が必要となるが、それを乗り切らなければ、この国の明るい未来を切り開くことはできないのだ。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『日本の論点2024~2025』(プレジデント社)など著書多数。
※週刊ポスト2024年1月1・5日号