経済アナリスト・森永卓郎氏が“2024年を占う1冊”として挙げるのが『「人口ゼロ」の資本論 持続不可能になった資本主義』(大西広・著/講談社+α新書)だ。岸田政権が少子化支援策を次々と打ち出す中、どうすれば本当に少子化を止めることができるのか──。森永氏が同書を読み解き、考察する。
* * *
最近は、増税批判ですっかりぼやけてしまったが、岸田政権が打ち出した最大の政策は、3兆円台半ばの巨大予算を投ずる「異次元の少子化対策」だ。しかし、この政策が功を奏して、少子化が止まるだろうとみている専門家はほとんどいない。異次元対策の中身が、児童手当受給の所得制限撤廃や期間延長、出産費用の保険適用など、子育て支援に集中しているからだ。
それでは、どうしたら少子化を止めることができるのか。その答えが、本書には明確に描かれている。それは、大部分の家庭が、子供を産み、育てることが可能になる所得の確保だ。
著者は江戸時代の人口動向を分析し、人口停滞期は、社会の下層の人たちの所得が減少し、格差が拡大することで、出生率が下がり、人口が伸びなかった事実を発見する。そのことは、現代の統計とも符合する。
いまでも、結婚さえできれば、平均1.9人の子供が生まれている。つまり、いまの少子化は、非婚化の進展がもたらしたものだ。現実に、年収と結婚率はきれいな逆相関がみられ、年収150万円から199万円の20歳代後半男性の結婚率は、6人に1人に過ぎない。年収が低いと結婚してもらえない現実があるのだ。
著者のもう一つの発見は、マルクスが「資本論」のなかで、資本主義の行きつく先に人口減を見据えていたことだ。資本は、自己増殖することだけを考えるから、労働者には生きていくためのギリギリの賃金しか支払わない。結婚して、子を育てる分まで支払うはずがないのだ。
もちろん、岸田総理は、所得環境を改善しようと「賃上げ」の旗を振り続けているが、いまのところ企業は面従腹背だ。だからこそ、岸田総理には是非本書を読んでいただいて、異次元少子化対策を抜本的に見直して欲しい。そうしないと、少子化がずるずると進行し、日本経済は、延々と縮小を続けていくことになるだろう。
※週刊ポスト2024年1月1・5日号