2023年も様々な裁判が行われた。『週刊ポスト』誌上で読者のいろいろな“法律のお悩み”に解答してきた竹下正己弁護士は、この1年の中でどの判例に関心を持ったのか。竹下弁護士に聞いた。
【相談】
今年も暮れようとしています。ロシアのウクライナ侵攻だけでもウンザリなのに、イスラエルとハマスの武力衝突。どちらもまだ、出口が見えてきません。国内では止まらぬ物価高などに、最善の手を打てない政府にゲンナリ。そんな2023年で、竹下弁護士が気になった判例がありましたら教えてください。
【回答】
袴田巌死刑囚の第二次再審差戻審の東京高裁決定です。有罪の決め手は裁判開始後、1年以上経って味噌タンクから発見された衣類で、その衣類には被害者と、袴田氏の同型の血液型が残った血痕が付着しており、同氏が犯行時に着用していたと認定されました。
しかし、1年以上も味噌に漬かった衣類の血痕は赤みがなくなる等の実験結果を新証拠として再審が請求され、審一審静岡地裁では再審を認めましたが、東京高裁が否定し、最高裁がその決定を取り消して東京高裁に差し戻しました。
そして、東京高裁が今年3月に再審を改めて認め、検察も特別抗告をせず、再審開始が確定。
事件発生後、57年も経過してからのやり直し裁判が始まります。
半世紀以上前に“昭和の巌窟王”と呼ばれた吉田石松氏を超える長さですが、注目すべきは差戻審決定が「衣類を科学的、客観的に分析、検討した結果、ねつ造されたものであると疑わざるを得ない状況になっている」と警察による証拠ねつ造を指摘したことです。
以前、大阪地検の検察官がフロッピーディスクを改ざんしたように、捜査機関による証拠ねつ造は決して珍しいことではありませんが、判断の理由中に証拠のねつ造と明記されたのは衝撃的でした。