「DS3オペラBlueHDi(以下DS3オペラ)」を製造するのは、2021年に「FCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)」と、フランスの自動車グループ「グループPSA(プジョー・シトロエン)」の2社が対等合弁して誕生した「ステランティスN.V.(以下、ステランティス)」という多国籍自動車メーカーだ。
何度となく合併を繰り返してきた結果として、新生ステランティスには現在、14ものブランドがあり、そのルーツとする国もフランス、イタリア、アメリカ、ドイツ、イギリスなど、5カ国に上る。その中でDSと言えば「フランスの高級ブランド」という位置づけがされていて、その最小モデルがこのDS3。そこで表現されている“高級”とはどんな味わいをもっているのか。シリーズ「快適クルマ生活 乗ってみた、使ってみた」。自動車ライターの佐藤篤司氏が、このプレミアムコンパクトを乗車してレポートする。
パリの香りを全身にまとったコンパクトSUV
今回のDS3は、コンパクトな「ラグジュアリーSUV」を目指してモデル「DS3クロスバック」として、2019年から日本国内の販売が始まりました。それから4年、2023年の5月、マイナーチェンジを施された現行モデルが上陸してきたときには「DS3」となって車名からクロスバックが消えました。それでも本来のコンパクトなプレミアムSUVというポジションは変わらないままに、細部デザインの洗練度を進め、安全面などの機能や装備面も強化したわけです。
まずデザインですが、よりきらびやかさが加わっていました。まさにお色直しと呼ぶにふさわしく、フロントのキラキラとした大きめのグリルやヘッドライトユニット、さらに牙のように見える2本の細長いデイライトというデザインによって、目立ち度がアップしています。ヘッドライトやバンパーのデザインが少し変わっただけでも、実際には十分に見た人の目と心を惹きつけるだけの力を得ています。
存在感あるそのフェイスは、エレガントでありながらモダンというDSブランドに共通する唯一無二の造形美を表現し、視線を集めるには十分な個性があります。都会のファッショナブルなエリアを走り抜けるのにもしっかりと対応してくれます。いえ、むしろ大型のSUVなどで乗り付けるよりコンパクトであるほうが、乗る人をクレバーに見せてくれるはずです。
さてそんな外見と同様にインテリアのデザインも実に個性的です。シートは手触りが良いいナッパレザーで仕上げられています。さらに座面や背もたれは、メタル製のウォッチストラップをイメージしたデザインを採用しています。これは一枚革をステッチと革の癖づけだけで作り上げるというフランス伝統の革職人の技を活かした立体造形で、緻密なステッチや柔らかなレザーの風合いを活かすには実に効果的です。
実際に座ってみても体へのフィット感は良く、シトロエンの大きな特長である、しなやかな乗り心地をしっかりとサポートしてくれるのです。
そしてもう一点、高級感を演出しているのは、ダッシュボート中央にある10.3インチのモニター下にある操作系スイッチなどのデザインです。菱形で統一されたセンターパネルスイッチがズラリと並び、おまけにセンターコンソールにあるクロームのデザインは、パリのヴァンドーム広場の石畳を表現したという“クル・ド・パリ”を採用して仕上げられています。高級腕時計や高価な宝飾品に用いられるデザインがインテリアには散りばめられた演出を見ると「デザインも重要な性能」だと改めて思います。