田代尚機のチャイナ・リサーチ

ヘッジファンドの人民元売り崩し、失敗に終わったか【1】

 2016年後半以降、本土市場において資金流出が起きている。“もし、それが深刻であれば、為替を少しでも人民元安方向に動かせたら、資金流出が加速し、当局が管理できないほど人民元安が進むのではなかろうか?”──彼らの意図は明白である。

 中国本土の為替取引システムはやや複雑である。人民元対ドルレートは、銀行間における外貨のやり取りの場である外貨取引センターにおいて、需給に応じた自由な取引の結果として決定される。ここだけ見れば、変動相場制である。

 ただし、大きな縛りが一つある。それは、中国人民銀行が取引開始前に発表する基準値に対して、上下2%の範囲内でしか取引が許されないということである。つまり、中国人民銀行が基準値の上下によって為替水準をコントロールできるシステムとなっている。

 問題はこの基準値をどのように決めるのかという点である。制度としては、前日の終値と通貨バスケットの変動を参考にして中国人民銀行が決定するといったものであるが、2015年8月11日、中国人民銀行はその日の基準値を前日と比べ1.82%元安方向に調整した上に、「今後は、前日の終値を参考として、外貨の需給状況、国際主要為替市場の変化を総合的に考慮して中間レートを算出する」と発表した。

 これ以降、資金流出が加速した。外貨準備高の推移をみると、2015年7月末は3兆6513億ドルであった。それが、2016年12月末には3兆105億ドルまで減少している。ちなみに直近では6か月連続の減少である。

“規模が小さく、規制の少ないオフショア市場ならば、人民元売りを仕掛けることができる。日中取引であれば、本土市場にもその影響は及ぶはずだ。本土の資金流出は深刻で、しかも当局は為替取引システムを変動相場制に近づけている。本土市場を大きく元安に持ち込むことができるかもしれない……”。これが欧米系ヘッジファンドの思惑であろう。

(【2】に続く)

文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサル ティングなどを行うTS・チャイナ・リサーチ代表。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」、メルマガ「週刊中国株投資戦略レポート」も展開中。

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