昨年は地政学リスクや物価上昇に見舞われながらも、日本企業は円安などの恩恵で過去最高益の更新が相次ぎ、日経平均はバブル後最高値を更新した。武者リサーチ代表の武者陵司氏と、日本金融経済研究所代表理事の馬渕磨理子氏が今年の日本経済の展望を見通す。【全3回の第1回】
武者:まず2024年の世界全体の景気見通しは明るく、特に日本は間違いなく良くなると見ています。
第一に想定外とも言える米国の強さ。2023年はあれだけ利上げしたのに好景気が続いた。誰もが腰折れすると予想したが、読み違えました。コロナ後のリベンジ消費や挽回生産など短期的な要因はいくつもあります。
馬渕:たしかに米国の消費はなかなか腰折れせず、金利が5%超と高いのに、住宅市場は活況を呈していました。今買わないと来年はもっと高くなる、という『インフレマインド』が浸透していて、日本ではなかなか馴染みのない感覚でしょうね。富裕層の増加も著しく、ベビーブーム世代のシニア層の資産は「1京円」を超えるとされ、消費を支える大きな要因ですね。
武者:強さの背景には、新たな「産業革命」があると思います。巨大ITプラットフォーマーもそろそろ頭打ちかと思っていたら、ChatGPTをはじめ生成AI(人工知能)の新たなイノベーションが起こり、足踏みどころか、新たな成長のプロセスに入っています。
馬渕:昨年、米国ではシリコンバレーバンクなど銀行破綻が相次いだのに、信用不安は広がらなかった。今は何事もなかったかのように株価も上がり、NYダウは12月に史上最高値を更新したほどです。
武者:あの時、米国財務省が「預金保険の対象外の預金まで全額保護する」という異例の声明を出した。そんな決定をすぐにできてしまうのが、米国の本質的な強さだと思うんです。11月の「米大統領選」も、結果はどうあれ、国民が望む路線を敷くという基本的な軸は変わらないでしょう。
馬渕:選挙では支持集めのために様々な選挙対策を打ってきますから、誰が選ばれるかにかかわらず盛り上がりやすいイベントです。株式市場にとってはプラス材料で、それも含めて2024年も株高傾向は続くと見ています。
(第2回に続く)
【プロフィール】
武者陵司(むしゃ・りょうじ)/1949年生まれ、長野県出身。(株)武者リサーチ代表、投資ストラテジスト。1973年大和証券入社後、ドイツ証券副会長などを歴任し、2009年より現職。
馬渕磨理子(まぶち・まりこ)/滋賀県出身。京大院卒。日本金融経済研究所代表理事、経済アナリスト。ニュース番組『FNN Live News α』(フジテレビ系)にコメンテーターとしてレギュラー出演中。
※週刊ポスト2024年1月12・19日号