「日本文化をもう一度みつめ直したい」と、大人になってから日本の伝統芸能を本格的に学ぶ人たちがいる。とっつきにくい印象もある伝統芸能だが、得られるものも大きいのだという──。
伝統芸能の中でもとりわけハードルが高いイメージのある能の世界に飛び込んだのは、女性能楽師として舞台に立つ関直美さん(59才)だ。
「実は私、能の世界に入ったのは35才のときなんです。それまではニューヨークの大学と大学院で心理学を学んでいたのですが、家庭の事情で30才のときに帰国しました。ニューヨークにいたときに、改めて日本文化の奥深さを感じ、帰国後、以前から興味のあったお能をやってみたいと思うようになったんです。そこで、邦楽科の中に能楽の専攻がある東京藝術大学をセンター試験から受験。本格的に学ぶようになりました」(関さん・以下同)
東京藝術大学大学院音楽研究科博士課程修了後は、宝生流の舞台で、女性能楽師としては初めてシテ(主役)を務めた。
「お能は男性のイメージが強いのですが、宝生流は女性にも門戸を広げており、女性のお弟子さんもたくさんいます。もちろん皆さん、まったくの初心者で一から始めたかたばかりです。
生徒さんは小学生から70代までいらっしゃいます。最初は堅苦しそう、ハードルが高そうと思われていたかたでも、一度やると『楽しかった、またやりたい!』とおっしゃるかたがほとんどです。
能楽は『謡』と『舞』で構成されていますが、腹式呼吸で謡うことにより健康増進やストレス解消につながり、美しい所作や品性のある日本語を学ぶことができます。最初は声があまり出なくてもお稽古を続けることによってだんだん大きな声が出てくるようになります。生徒さんからは、『謡ったり舞ったりすることによってポッコリお腹も解消されました』という声も多いですね。
それにふだん練習してきた成果を舞台で出せるので、うまくできたときの達成感は、計り知れません。それが自信にもつながるのだと思います」